
試合中、感情に流されてしまった——。そんな経験をしたことはありませんか? 怒り、イライラ、悲しみ、落ち込み。 試合中に冷静さを失い、自分らしいプレーができなかった。そのあとに悔しさや後悔が残る。 だからこそ、「次こそは感情をコントロールしよう」と決意する。
けれども、いざ試合になると、また同じような感情が押し寄せてくる。 わかっているのに、できない。この「わかっているけどできない」という“谷”を越えていくために、 まずは「感情には目的がある」という視点を持ってみませんか?
感情は“敵”ではない
スポーツの現場では、とかく「感情を出すな」「冷静にプレーしろ」と言われがちです。 感情はコントロールすべきものとされがちですが、そうそう簡単にできることではないのと同時に、そのように位置づけられると感情は”邪魔なもの”と捉えられてしまいます。
しかし、感情とは本当に“邪魔なもの”なのでしょうか?
怒りは、何か大切なものが脅かされていることを知らせてくれます。 不安は、これから起こるかもしれないリスクを教えてくれます。 落ち込みは、立ち止まって自分と向き合う時間の必要性を気づかせてくれます。
つまり、感情は本来、私たちに必要な情報をもたらしてくれる“味方”なのです。適切に扱えば、それは大きなエネルギーになります。怒りは集中力に、不安は準備の力に、落ち込みは内省して改善する力に変わります。感情を押さえつけるのではなく、どう生かすかが問われているのです。
逆に、感情が湧かないということは、その状況に対する思い入れがないということでもあります。心が動かないというのは、挑戦への意欲や関心が弱まっているサインかもしれません。だからこそ、感情が動くこと自体が、人が本気で向き合っている証でもあります。
感情とは“内なる欲求”の表れであると捉え、無理に押さえ込むのではなく、「その感情には、どんな役割があったのか」と観察していくことが、 感情との新しい関係を築くきっかけになります。
感情の目的
たとえば、怒りの裏には「自分の正しさを認めてほしい」、焦りの裏には「早く認められたい」、落胆の裏には「ここまで頑張ってきたのに」という想いが隠れています。これらの気持ちは、すべてあなたが真剣に競技と向き合っている証でもあります。
感情に対して冷静に対処しようとしても、こうした内なる欲求のほうが強く働いて、どれだけ落ち着こうとしても、心の奥では感情が勝ってしまいます。背景には、多くの場合自分が大切にしてきたこと、行動や感情を守りたい、という心理があります。
その結果、私たちは冷静にいることよりも感情や行動を正当化しようとします。「自分は間違っていない」「仕方ないことだ」と心の中で理由づけをして感情的になるのは、自分を守る自然な働きなのです。しかしその裏では、誰かに理解されたい、報われたい、自分の価値を確かめたいという願いがあります。冷静に観察する前にこの防衛反応が起きることで、感情に対して冷静に対処することが難しくなるのです。
観察を育てるには“安全”が必要
観察は、感情を出しても責められない、失敗してもやり直せる、そんな安全な土壌があることで、初めて人は自分の感情を冷静に見つめることができます。
これまで「出す」か「抑える」しかなかった人にとって、「見つめる」という第三の道が生まれる瞬間です。安心して感情を表現できる環境が整うことで、人は感情を通して自分を深く理解できるようになります。
ともすると、「感情を出すこと」を肯定的に捉えない環境に身を置くと、感情そのもの自体を見つめるべきでないと考えてしまいがちです。けれども、本当に強い選手とは、感情を消したり、おさえたりするのではなく、感情を理解し、扱い、逆にその力を使う選手ではないでしょうか。
安全な場とは、単に優しい雰囲気のことではなく、「感情を出しても大丈夫」「わかってもらえる」という信頼の積み重ねです。チームであれば、お互いの失敗や感情を共有できる空気があること。個人であれば、自分自身に対して「感じてもいい」と許すこと。それが感情を観察するための土台になります。
観察ができるようになると、感情を抑える必要がなくなります。怒りを感じても、自分を責める代わりに「なぜ守りたかったのか」を見つめられるように、落ち込んだときも、「それほど本気だったんだ」と受け止めて次に進む力に変えられます。安全な場は、感情を理解し、使いこなす力を育てるための支えなのです。
感情を味方にするための”観察”や“問い”の技術についてはこちらの記事をご覧ください。
👉️観察で努力と結果が変わる。観察からはじまる上達の循環
👉️上達のために鍛えたい“問い”の力
まとめ
感情に揺れたときは、それを責めるのではなく、「この感情には、どんな意味があるのか?」と問い直してみましょう。怒りや焦り、落胆の奥には、きっと何かを守ろう、成し遂げようとする意図が隠れています。
その目的を見つけることが、感情を力に変えるスタートです。感情を抑えるのではなく、理解し、必要に応じて使いこなせるようにしていく。その過程で、自分自身の価値観や大切にしているものがより明確になっていきます。
そして、こうした感情との対話を続けていくためには、安心して感情を表現し、共有できる場が欠かせません。安全な関係の中でこそ、感情を正面から見つめる勇気が生まれます。お互いの気持ちを想像し、受け止め合うことが、チームとしての信頼と落ち着きを育てていきます。
スポーツにおけるメンタルの強さとは、感情を押し殺すことではなく、感情を理解し、建設的に扱う力——つまり“感情との対話力”なのだと思います。まずは、「感情には目的がある」という視点を持ち、自分や仲間の感情に静かに耳を傾けるところから始めてみてください。
感情についての具体的な実践について記事
👉️メンタルの波に飲まれない選手がしている感情の扱い方
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