近年目覚ましい活躍をみせている大谷翔平選手。日本を代表する野球選手ですが、過去に類をみない活躍で日本に元気を与えてくれています。
近年では超高校級と呼ばれる若い選手が続々とプロ野球の門を叩いており、明らかに昔と比べ選手の能力がレベルアップしていますよね。ただその一方で、子どもの体力低下も危惧されており、スポーツに取り組む子どもたちも減少傾向にあります。現に、小中学生の野球人口は2007年に66万4415人だったのが、2020年には40万9888人となっています。(全日本野球協会調べ)
これは、日本の少子化の7〜8倍のスピードだと言われており、野球が大好きな筆者としては寂しい現実です。このまま少子化とスポーツ離れが進むとチーム編成が難しい地区も多くなり、選手のレベルの格差が広がる懸念もあります。今回は、幼少期の子どもたちの「投げる力」に焦点を絞って、ある研究データをもとに、私たち大人と子どもの関わり方についてお話させていただきます。
【投げる力】1980年代の幼児 VS 現代の幼児
加藤謙一氏らは、現在の幼児(年長29名)と1980年代の幼児の投げる動作及びその球質のデータを比較検討しました。
その結果、
- 投距離:投げたボールの飛距離
- 投射初速度:リリース時のボールの速度
- 投射高:リリース直後のボールの高さ
以上において、現代の幼児より1980年代の幼児の方が高い値を示しました。
つまり、1980年代と比べ現代の幼児の投げる動作が、「低い高さで遅くボールを投げ出している」動作に変容していることを示唆しています。
さらに詳しくみていくと、投げ方にも変化がありました。昔と比べ「体幹の捻り」を使っていないのです。上半身だけの力で投げても強いボールがいかないのは周知の事実。下半身で溜めた力を、体幹がスムーズに上半身に力を伝えることで強い腕の振りができて、結果的に強い球を投げることができます。
しかし、現在の子どもたちはその体幹の使い方が下手くそになっているのです。なぜ投げる力が落ちてしまったのでしょうか?
そこには昔と今の「遊び方」の違いが関係しているのかもしれません。
「投げる」動作はいつ習得するのか?
そもそも「投げる」動作はいつ、どのように身につくのでしょうか。
ボールを握ったり転がしたりする遊びは座った姿勢を自分で保持できる0歳の時から可能です。個人差がありますが、そこから片手でオーバーハンドで投げる動作は早くて1歳半ごろからでき、6歳ごろにはある程度「投げる」動作を習得します。ただ、走る・跳ぶといった動作は身体の発育発達により自然に習得していきますが、投げる動作は発育発達よりも投げる運動の経験によるものが大きいと言われています。
つまり、日常的に投げることに関連した遊びや動きを経験することが投げる動作の習得への近道と言えるのです。
原因は幼少期の遊び方?!
投げる動作の習得について説明しました。では1980年代と比べて、どうして投げる力が落ちているのでしょうか?
今回紹介した研究の中で、投げる動作の解析とは別に、「運動遊びに関する質問」も行っています。
その集計結果を以下にまとめました。
- 男児の屋外遊びと屋内遊びの割合は、それぞれ57.1%、42.9%
- 女児の屋外遊びと屋内遊びの割合は、それぞれ13.3%、86.7%
- 男児は屋外遊びの中では、ごっこ遊びが87.5%、固定遊具を使った遊びが12.5%
- 女児は屋外遊びの中では、固定遊具を使った遊びのみ
- 男児、女児ともに投げる運動に関連した遊びは無し
園児29名の少ないデータではありますが、とても興味深い結果となりました。先ほども述べましたように、投げる動作は遊びなどの経験により習得しやすく、スキルも上がると言われています。しかし、このように投げる機会が減ってしまっていては、ボールを投げる力が落ちてしまうのも仕方ありません。
そもそもインターネット環境の整備や遊びの多様化、外気温の上昇などにより外遊びの頻度自体が少なくなっている昨今。投げる力だけでなくあらゆる体力要素の低下が問題視されているのです。
野球人口増のカギを握るのは大人の関わり方
これらの問題に対抗する術はあるのでしょうか?私はあると思っています。それは大人、親の関わり方です。
野球に関わらず、全てのスポーツにとって競技人口の減少は大きな問題となっています。昔は毎日プロ野球のテレビ中継が流れていました。そしてスター選手が活躍している姿を観て、憧れ、真似をし、いつの間にか野球にのめり込む子どもが多かったですよね。
しかし今はYouTubeやNetflixなどの台頭によりいつでも大好きなアニメや面白い動画配信が観られる状況となっています。もちろんそれが悪いわけではなく、便利であり、楽しい時間をより多く過ごすことができ、大変素晴らしいことだと思います。
ただ、幼少期は身体の使い方、つまり運動神経を発達させるのにとても重要な期間です。
この時期の運動経験が後のスポーツ活動に大きく影響を及ぼします。極端な話、この時期を逃してしまうと、運動発達のボーナスチャンスを失うと言っても過言ではありません。そこでこの記事を読んでいるあなたには「遊びの達人」になってもらいたいと思います。
未来のプロ野球選手(アスリート)のためにもぜひ実践してみてください。
遊びの達人への道5つのポイント
まずは自分が楽しむ
子どもは大人の行動を良く見てそれを真似します。大人が心から楽しんでいるのをみるだけでワクワクするのです。一緒に遊ぶ時はぜひ、率先して遊びを思い切り楽しんでください。
より具体的に褒めてあげる
とにかく危ないことや他人に迷惑をかける以外のことは、何でも褒めてください。褒められて嫌な気がする人はいません。褒めるコツは具体的に褒めることです。
例えば、キャッチボールをしている時は、
「上手に捕れたね」
「狙った場所に投げられたね」
「今までで1番遠くに投げられたね」
などという感じです。
「こうすると褒められるんだ!」
と、子どもたちは何をすると喜んでくれるのか考えるようになります。そして遊びに夢中になっていくでしょう。
失敗したり上手くいかなかったりしても叱らない
遊びの中では、叱る、厳しく指導することはタブーです。もちろん危険な行動や周りに迷惑をかける行為があった時は、きちんと制する必要があります。しかし、ルールの中で自由に遊ばせることで子どもたちの創造性を育むことができます。大人であるあなたが大きな心で見守ってあげることで安心して遊ぶことができるのです。口や手を出し過ぎず、子どもが思い切り遊べる環境を作ってあげましょう。
その子がギリギリできないことをさせてみる
物事に取り組むときに目標を決めることで、それを達成するには何が必要なのか考えることができます。子どもの遊びも同じです。何か目標を提示してあげるとそれをクリアしようと無我夢中で取り組んでくれることがよくあります。
その目標を決めるコツは、ギリギリできるかできないかのところに設定をすることです。むしろ「ギリギリできない」寄りにすると、没頭して取り組む子もいます。
できないと子どもなりにも
「何でできないんだろう?」
と考えます。
そうして自分なりに取り組んで、最終的に達成することができたら、自分のことのように喜んで、目一杯誉めてあげましょう。
より多くの成功体験を!
遊びや日々の生活の中で、成功体験をさせていきましょう。努力して何かができるようになった喜びは、何事にも代え難い経験となります。どんなことでもいいのです。
何か目標を決めて、それを達成したときにしっかり褒めてあげる。
もし褒めるという行為が無ければ、成功体験の価値も半減してしまいます。幼少期は運動神経を向上させるゴールデンタイムです。色んなことを経験し、その中で成功体験を積み上げていけると、心身ともに大きな成長がみられるでしょう。
まとめ
今回は、昔と今の幼少期の投げる力の差から、遊びの変容、そして遊びの重要性をお伝えしました。今の子供たちに必要なものは何なのか、もう一度考え、向き合うきっかけにしていただけたら幸いです。
以下に本日の内容をまとめております。
- 小中学生の野球人口は2007年に約66万人だったのが、2020年には44万人と大幅に減少している。
- 1980年代の幼児に比べ、現代の幼児の投げる力は落ちている。
- 現代の子どもたちは昔と比べ、外で遊ぶ頻度が減り、ボールを投げる動作に関連する遊びも減少傾向である。
- 遊び方の変化が投げる力に影響している可能性がある。
- 子どもたちの運動神経の発達には幼少期の遊びが非常に重要となるため、親を中心とした大人たちの関わりがカギを握っている。
参考文献:
幼児の投運動の特徴に関するキネマティクス研究:1980 年代の幼児との比較 発育発達研究 第 91 号
2021;91:1-11