指導力不足を感じる人が考えたい「主体性を育むこと」とは?

「指導力が足りないかもしれない」「自分の教え方はこれでいいのか」──そう感じることは、決してマイナスではありません。特に、選手に対して明確なアドバイスや技術的な指示ができないことに不安を感じている方は多いかもしれませんが、実はそれこそが、選手の主体性を育むうえで大きな強みになり得ます。

指導力不足を感じるということは、自分の指導に真摯に向き合い、選手のことを思っているからこそ生まれる感情です。そしてその謙虚な姿勢がある指導者にこそ、選手自身の気づきが促され、自分で自分を成長させていく主体的な姿勢を育むことができるのではないでしょうか。

主体性が育つ指導を考える

これまではコーチや指導者が生徒や選手に対して、教え、伝える、という一方向的な指導が行われてきました。しかし、技術や心が変化・成長する時には、「これでうまくいくだろうか」という不安や恐れと向き合うことや、なかなか結果が出なくても今自分が取り組んでいることを信じて継続することなど、自分と向き合わなければならない場面が出てきます。そうしたとき、自分を支えるためには、自分自身の中にある“信念”のようなものがよりどころになるのではないでしょうか。それは、他者から一方的に与えられるのではなく、自分自身が問いを立てたり、観察したりしながら、自らの価値観や感情と向き合いながら見出し、育んでいくものです。「なぜこれをやるのか」「どうして今この練習をしているのか」といった問いと主体的に向き合いながら取り組む姿勢が自分を支えてくれます。

「褒める」「叱る」「教える」「育てる」といった指導は、「できている」「できていない」「良い」「悪い」という基準を指導者が持っていることが前提になっています。ですが、選手自身の内面から主体性を育む場合には、選手自身が自分の動き・考え方・取り組み方を鏡を通して見つめるように指導者が鏡のような存在となり、選手が自らで自らの基準を育み、自分で自分の行動を評価するようになれるようになってこそ、選手自身に本当の意味での主体性が育まれていきます。

そのように考えると、指導者は、選手自身に主体性が育まれるプロセスを支える存在として、対話や問いかけを通じて選手の内側にある価値観や信念を明らかにするような存在であることが求められています。


1. 観察する力を育てる──事実を見る力がすべての出発点

まず大切にしたいのは「観察する力」です。これは単なる視覚的な観察ではなく、思い込みを排し、今起きていることをフラットに見つめる力です。

観察を通して、選手自身の動きや感情を、時に選手以上に察知することができると、選手が気づいていないズレや違いに気づきます。そうすることで、選手自身が指導者という鏡を通して自分を見つめ直す時、指導者はその「鏡」を的確な場所に向け、選手の気づきを促すことができるのです。

そして、観察者としてたち振る舞う時、そこには思い込みがあっては、正しく事実を観察することができず、捻じ曲げて見てしまいます。謙虚な姿勢を持ち、「何が見えていないのか」「見えているつもりになっていないか」を問いながら見つめることで、先入観を手放して観察ができるのです。

観察とは、選手の動きや反応だけでなく、取り組み方、表情、声のトーン、集中状態など、言葉にならない多くの情報を含みます。観察を通じて得た気づきは、次の問いやフィードバックに自然とつながります。


2. 問いかける──気づきを促す関わりへ

「指導」と聞くと、「教える」「アドバイスする」というイメージを持つ人も少なくありません。しかし、選手自身が納得して取り組むには、自分で課題を自覚し、自分の言葉で答えを見つける必要があります。

そのために有効なのが「問いかける」ことです。たとえば、

  • 「今の動き、どこに違和感があった?」
  • 「今、何を意識して取り組んでいた?」
  • 「うまくいかなかったとしたら、何が要因だったと思う?」

といった問いかけは、選手自身が自分の思考を整理し、自分の成長に責任を持つ第一歩となります。

問いを投げかけるということで、選手の課題に鏡を向け、選手自身が差し出された鏡を通してその課題を見つめるように働きかける行為です。問いを通して、選手が自らの課題と向き合い、さらにはその課題が育まれてきた内面や、課題への向き合い方に潜む自分自身の弱さ・信念や感情に触れることで、選手は自分というものを発見し、自分の中に存在する力で動き出します。

一緒に向き合い、考えるプロセスを共有することで、コツや発見が選手自身の中に正しく、深く刻まれることにもつながります。


3. “課題”と一緒に向き合う

多くの指導場面では、つい「こうすればいい」とアドバイスを先に伝えてしまいがちです。しかし、選手本人が自分の状態を理解していないままアドバイスを受けても、それは届きません。課題やミスには、必ず原因があり、その原因のあとに結果が出てきます。だからこそ、選手が表面に現れた結果だけを捉え、その結果に対してアドバイスを受けたとしても、本質的な原因は解決されないですし、原因を解決する姿勢も育まれません。

一緒に原因を探し、向き合い、考えるプロセスを通じて、選手自身の中に原因を探し、向き合う姿勢が育まれていきます。ともに向き合い、探し出したコツは、選手自身の中に正しく、深く刻まれていきます。

大切なのは、「今、どこがうまくいっていないのか?」「理想と現状のどこにズレがあるのか?」といった、原因を探求する視点を選手とともにしながら、観察から得た気づきをもとに、選手と対話をすることで「原因を協働して発見していく」プロセスです。

このプロセスを共有できれば、選手は“教えられた”のではなく“自分で気づいた”と感じることができ、学びが深く定着します。そして少しずつ自分自身の力で課題と向き合うことができるようになっていきます。


💡「問い」と「観察」をベースにした指導については、こちらの記事も参考にしてください:
👉「問いと観察から始める技術指導──経験がなくてもできる“考える指導”のすすめ


まとめ|

選手自身の中に基準を育み、その基準で自分自身と向き合えるように支えていく、そのような指導の在り方こそが、現代の指導者に求められている「力」ではないでしょうか。謙虚であること、丁寧に向き合うこと、一緒に考えること。それらの積み重ねが、選手の主体性を育み、結果として選手自身の「本当の力」を引き出していく道につながっていきます。

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