
技術的な知識や練習メニューに自信がなくても、“言葉かけ”で選手の取り組みが大きく変わることがあります。指導方法がわからないと感じるときこそ、言葉の力が大きな味方になります。本記事では「言葉で支える選手育成」をテーマに、部活指導法の中で使える言葉かけの具体例と、その意味・工夫について紹介します。
なぜ言葉かけが大事なのか?
人は、どのような時に気づき、変化し、成長するのでしょうか。
これまで、教育や指導というと、正解となる答えややり方があって、それを伝えることが指導であると考えられてきた部分があると思います。しかしこのような教え方では、個々の課題に対する内発的な気づきや動機が育ちにくく、指示待ちの姿勢や受け身の学びにつながってしまうという課題も生まれています。
また、もともと一人ひとりの身体の使い方や運動能力には違いがあります。誰かの「うまくいった方法」は、その人の体と心の地図の中での道すじであって、自分にもそのまま当てはまるとは限りません。だからこそ、誰かの「うまくいった方法」を自分のものにするためには、なぜそれが効果的だったのか、どのようにしたら自分に当てはめられるのか、自分にとっての意味や手応えと照らし合わせていくプロセスが必要です。
そのように考えると、「答え」や「やり方」がわかったとしても、実際にそれをできるかどうか、どのようにしてそこにたどり着くか、といったプロセスを経なければ答えにはたどりつけないことがわかります。
そのように、教育や人の成長の本質を考えるとき、真の変化や学びは、誰かに答えを与えられるものではなく、自ら問い、気づいたときに成長が生まれるものだと考えられます。
そして、「答え」や「やり方」にたどり着くためのプロセスを生徒自身が学び、自分でできるようになるためには、「考える姿勢」「考え方」を示しながら、伝えていくことで少しずつそのような姿勢が育まれていきます。指導方法がわからないという気持ちを抱えると、つい声かけにも慎重になりがちですが、このように考えると、技術的な知識や経験が少なくても、選手育成の中で言葉かけを通じて取り組む姿勢を育むことができます。
言葉かけは、こうした「考える姿勢」「考え方」への入り口を作るものです。こうした問いかけや対話によって、選手自身が自分の内面と向き合い、主体的に考える環境をつくることで成長が促されるのです。
たとえば、「いまの動きどうだった?」と聞くだけでも、選手にとっては自分で振り返るきっかけになります。言葉かけは、選手に寄り添いながら課題意識を共有し、共に考える土台を築くための橋渡しになるのです。
「問いかけ」「承認」「促し」の3タイプ
1.問いかけ:考える力を育てる
- 「今、何を意識して取り組んでいた?」
- 「そのミスの原因って、どこにあると思う?」
- 「どこまで狙ってできた?」
2.承認:自信と安心感を与える
- 「さっきのタイミング、めっちゃ良かったよ」
- 「前より落ち着いてプレーできてたね」
- 「工夫してるのが伝わってきたよ」
3.促し:行動を後押しする
- 「もう一回、今度は目線を意識してやってみよう」
- 「さっき意識したこと、ラリーの中でもできそう?」
練習中に使える言葉かけ集
状況声かけの例 | |
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うまくいかないとき | 「何がうまくいっていない感じがする?」「その動き、どこを意識してた?」「うまくできたときと何が違った?」 |
成長の途中 | 「前よりも○○の部分、良くなってきてるね」「その意識、大事だと思うよ」 |
手応えがない様子 | 「今日の中で、自分なりに工夫したことは?」 |
試合後の声かけ | 「どこが狙い通りにできたと思う?」「もう一度やるなら、どんな準備をしたい?」 |
言葉かけで選手の姿勢が変わった事例
ある部活動では、指導者が「できていないところを直す」のではなく、「どんな工夫をしているか」に目を向けて声をかけるようになったことで、生徒の雰囲気が大きく変わりました。
「何を意識していた?」という問いかけに、生徒たちは自分の動きを言葉にするようになり、次第に「今日はここを意識してやってみる」と主体的な目標を持つように変化していったのです。
このような実践は、指導方法がわからないと感じたときにこそ活きてくる部活指導法です。特別な技術を教えられなくても、「問いかけ」や「承認」が選手の力を引き出す道になります。
言葉の力を信じて、指導に取り入れる工夫
「自分はまだ指導力がない」「何を教えたらいいかわからない」――そんなときこそ、まずは“言葉”の力を信じてみてください。
問いかけ、承認、促し――どれも日々のちょっとした声かけの工夫から始めることができます。言葉かけは、選手の行動や気持ちを変える大きな一歩です。選手育成の視点で見ても、言葉は重要な支援ツールの一つです。
そして、選手が「見てもらえている」「一緒に考えてくれている」と感じることが、何よりのモチベーションになります。部活指導法や選手育成に取り組む中で、まずこの“言葉の力”を見つめ直してみることが、未来につながるコーチングスキルの礎になります。