指導者の言葉が「伝わらない」理由─選手理解から始まる指導力向上法

指導現場では、「伝えているのに伝わらない」「指導内容が選手になかなか伝わらない」「選手が理解してくれない」「正しい指導をしているはずなのに変化がない」と感じる瞬間が少なからずあります。たとえば──

  • 試合中、アドバイス通りに動いてくれない選手に苛立ちを感じる
  • 何度言っても改善されないフォームの癖に困っている
  • 「やる気がない」と感じてしまう場面に直面する

こうしたシチュエーションで「自分の指導力が足りないのでは?」と悩み、教え方のスキルを磨こうとする人は少なくありません。部活の指導法や個別指導について模索しながらも、「どうして伝わらないのか」「どこが間違っているのか」と迷ってしまうこともあるでしょう。

この記事では、一度立ち止まって、「どんな伝え方をしているか」「何を伝えるか」ではなく、「そもそも相手がどう感じているか」「なぜ伝わらないのか」という土台の部分を考えてみたいと思います。


なぜ伝わらないのか?──“指導力向上”の落とし穴

指導が伝わらないから指導力を高めたい、生徒が改善するように指導力をあげたい、と考えると、以下のようなことを考えるかもしれません。:

  • 指導のバリエーションを増やす(例:違う表現や教え方を試してみる。たとえば、「腰を落とせ」を「膝を曲げよう」「低く構えてみよう」など言い換えてみる)
  • 指導の正解が何かを探す(例:選手の悩みの答えをすぐに出そうとする。選手の課題に対する答えが何かを探そうとする)
  • より専門的な理論や資料を学ぶ(例:トレーニング理論、フォーム改善の書籍などを読み、指導メニューに取り入れる)
  • 簡潔なアドバイスを目指す(例:短く端的に伝えることで生徒が理解しやすくなるようにする。「もっと丁寧に」よりも「足をゆっくり出して」など具体的に)

これらはいずれも一定の効果を発揮する場合もありますが、もしもこういった取り組みをしてきてもあまり変化が生まれていないようでしたら、視点を変えてみることが必要かもしれません。

技術や方法論の工夫は大切ですが、それだけでは指導が届かないこともあります。もしも、選手自身が感じている「本当に困っていること」「不安に感じていること」「分からない理由」とは異なることをアドバイスしていたら、そこには大きな認識のズレが生まれてしまい、言葉が届かないことになってしまいます。

もしかしたら、その選手自身の悩みや不安は、取るに足りないものかもしれませんし、今は考えるべきことではないかもしれません。ですが、それを無視してどれだけ言葉を届けようとしても、選手自身が受け取れる状態になっていなければ伝わらないのが事実なのです。


選手の状態を理解する──問いかけと共感から始める

選手が今どんな状況にあるのか、何に不安を感じ、どんな気持ちで取り組んでいるのか。こうした内面の情報なしに、技術的なアドバイスだけを重ねても、心には届きません。

本当に効果的な指導は、問いかけや共感を通して選手自身の中にある言葉や想いを引き出し、本人が自分の課題を言語化・認識できるように促すことから始まります。

  • 「今、どこがやりにくかった?」
  • 「何がうまくいっていないと感じている?」
  • 「さっきより良くなったと思う?」
  • 「どう動きたかった?」

こうしたやりとりを通して、指導者は“選手の中の地図”を共有できるようになり、そのときに指導者の声を届けるためにどうしたら良いかが見えてきます。このような選手理解に基づくやりとりが、コーチングスキルの本質であり、個別指導の効果を高めるカギでもあります。

感情に寄り添う──心の扉をひらく鍵

選手が自分の中にある気持ちを安心して表現できるようになるには、感情が否定されず、尊重されていると感じられる関係性が不可欠です。不安や迷いがあるとき、それを見せることに抵抗を感じている選手も少なくありません。そうした選手の心に近づくには、「技術」や「理論」よりも、「あなたの気持ちを知りたい」という姿勢そのものが信頼のきっかけになります。

そして、もしも生徒がその感情を口にした時、その感情に寄り添うように受け止めましょう。感情を丁寧に受けとめ、その気持を共有できたとき、あなたのアドバイスや指導は、これまでとは違った表現になったり、あるいはこれまでとは違った受け取られ方がされるでしょう。

ここで、少しあなた自身の心に問いかけてみてください。自分の弱音、本当に思っている怖さや不安を口にすることについて、あなたは抵抗がないでしょうか。あなたが勇気を出して感情を口にした時、どのように受け止められたいでしょうか。あなたがあなた自身を大切に受け止めてもらいたいように、目の前の相手が口にした感情や気持ちを大切に受け止めましょう。


まとめ:選手理解から始まる、伝わる指導へ

「指導力が足りない」と感じたときこそ、「伝える前に、理解する」「答えを出す前に、一緒に考える」ことが大切です。

指導が伝わらないと悩むとき、問い直すべきは「伝え方」ではなく「選手との関係性」かもしれません。

指導力向上に必要なのは、コーチングスキルの本質としての“問いかけ力”や“共感力”を土台にした選手理解です。そして、こうした関わり方は、部活指導法に悩んでいる方や、個別指導で成果が出せないと感じている方にとっても、大きなヒントとなるはずです。

コーチングスキルとは、言葉巧みに説明する力ではなく、相手の内面に寄り添い、言葉を引き出し、一緒に道を探る“伴走力”があってこそのものと言うことができます。


💡「問い」をベースにした指導については、こちらの記事も参考にしてください:
👉「問いと観察から始める技術指導──経験がなくてもできる“考える指導”のすすめ

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