
どれだけ練習を続けても、自分が成長しているのかよくわからない。ほんとうに今のやり方でよいのだろうか。
そんな疑問を抱えながら、なんとなく練習を続けている人も少なくありませんか?
効果が感じられない練習を続けていると、上達した実感があいまいなまま試合に取り組んでしまうことになったり、改善したい課題に対して異なる原因に取り組み続けてしまうことになります。練習においては、何をもって成功とするのか、という基準を明らかにして取り組むことが必要です。
成功基準を明確にするメリット
練習の前に「何をもってできたと言えるか」を決めておくと、練習の中で達成の有無をはっきり確かめられます。小さな「できた」を積み重ねるための土台にもなりますので自信にもつながります。
- 「達成ライン」を決めるので、できた/できないがその場で分かる。できたつもりを防げる。
- 小さな「できた」を重ねて、自信の土台ができる。
- 数や条件で指標をはっきりさせると、上達の実感がつかみやすい。
- 目標ステージに合った基準にすれば、本番レベルで再現できているかをチェックできる。
- 事前の「ルール」を用意すると、プレッシャーの中でも判断がブレにくい。
- 易しい→難しい条件へ段階を上げ、強い状況でも「できるか」を確認できる。
1. 練習前に「どこができていて、どこができていないか」を分解する
練習を始める前に、自分の課題がうまくいかない原因を考え、その原因が複数考えられる場合には分解して整理しましょう。どこまでできて、どこからできていないのかがあいまいだと、練習内容もぼやけてしまいます。
原因を分解するときの注意点
- 「心」や「気分」で原因探しを止めない。失敗を少し巻き戻して、いつ・どこで・なぜ起きたかを明らかにする。特に、いつ気づくべきか・どのような動きをすべきか・どのような判断をすべきかといった具体的な要素に絞り込む。
例(サッカー):失点の原因を「集中不足」で終わらせず、ロングスローの距離を読み間違えた(気づき)ため、距離を正しく予測するようにボールを見る。 - 一度にたくさん変えない。本当に必要な一つだけを選び、同じ条件で繰り返して原因に手応えがあるか確かめる。
例(バスケ):シュートフォームの修正で「リズム」だけに絞り、毎回同じタイミングで打つ練習を繰り返す。 - 結果(点を取る・入れる)から一度離れる時間をつくる。古いやり方で結果を出そうとするクセを避け、新しい動きだけに集中する。
例(野球):打球の結果を見ずに、フォームの再現だけに集中してティー打撃を行う。 - 「できる境界」を探す。どこまでならできる/どこからできないかを見つけ、そこから少しだけ難しくする。
例(バドミントン):止まった状態でスマッシュが安定して打てるなら、次は少し動いてから打つ練習にステップアップする。 - 思い込みを疑う。「こうすべき」「昔こう教わった」が原因を隠していないかを問い直す。
例(バレーボール):強く打つほど良いと思い込んでいたが、トスを高くすることで安定して速いサーブが打てるようになった。
2. 練習中は「何ができたらOKなのか」を明確にする
練習中に「何ができたらOKなのか」が分かっていないと、ただ作業のように繰り返すだけになりがちです。正しく観察しながら取り組むことで、自分が意図した技術や判断ができているかを確認できます。
① 「できた」の基準を明らかにする
「何ができたらOKなのか」という基準を、練習前に明らかにしておくことが大切です。あいまいなままだと、練習の中で「成功」「失敗」が不明確なので、良い時がどういうときで、悪い時がどういうときなのかがはっきりしないため、改善もされていきません。
例(バスケットボール):シュート練習では「ボールがリングに入る」ではなく、「同じフォーム・同じリズムで打てたか」を確認する。
② 正解がわからないなら「正解を知る練習」から
もしその「正解」が自分でも分かっていないなら、まずは「正解を知るための練習」から設計する必要があります。いきなり難しい練習で「できるようにすること」を求めず、簡単な練習で「できる」を理解する段階が必要です。
例(卓球):フォアドライブのフォームがよくわからない場合、上手な人の動画を見たり、素振りで動きをまねて、動きや感覚を理解して、違いがわかる練習から入る。
③ 改善すべきことに集中して観察しながら取り組む
改善すべきテーマに集中して観察しながら取り組まないと、自分ができているのかどうか判断できません。競技では結果を求められるので、取り組む最中にも、ボールが入っているか・点が入っているかなどの「結果」につい気を取られてしまいますが、そこに意識が向いてしまうと、できているかどうかさえ、わからなくなってしまいます。改善すべきことに意識を向けて、できているかどうか、わかるように取り組みましょう。
例(ラグビー):タックルの練習では、「倒せたか」ではなく、「姿勢を低くして入れたか」「ヒットした後に押し込みができたか」といったテーマに集中して取り組む。練習中はその一点に意識を向け、結果に気を取られないようにする。
3. 練習後の振り返りで改善する
練習の後に行う振り返りでは、「できた/できなかった」という結果よりも、「何がどう変わったのか」「その変化がなぜ起きたのか」を観察することが大切です。その変化がどんな取り組みから生まれたのかを考えることで、次の練習に活かせるテーマが見つかります。
① 成功と失敗のパターンを整理し、次のテーマを設定する
どういうときにうまくいっていて、どういうときにうまくいっていないのか。振り返りでは、成功パターンと失敗パターンを分けて考えてみましょう。失敗のときに何が起きていたのかを観察し、そこにある原因を見つけ出すことで、次の練習で取り組むべきテーマが明確になります。
例(バレーボール):レシーブの成功率を上げるために「ボールを見続ける」ことを意識して練習を行っていたが、ミスが出るときには構え直しが遅れていることが多いと気づいた。その失敗の原因として「準備の早さ」の不足を見つけ、次回は構え直しのタイミングに絞った練習を設定する。
② 原因に取り組んでもうまくいかないときは、原因を再検討する
練習で見つけた原因に取り組んでいるのに、なかなか改善が見られない場合、その原因が本質ではなかった可能性があります。取り組んでいるテーマが「本当に効果を生んでいるかどうか」を確認しながら、必要に応じて別の原因を探して再設定してみましょう。
例(野球):バッティングで飛距離を伸ばしたくて、体重移動を改善する練習に取り組んでいたが、成果が出なかった。よく観察すると、体重移動を生み出すためには「ボールに対する振り出すタイミング」が課題ではないか、と考える。そこで次の練習では、ボールと振り出すタイミングに集中するメニューに切り替えた。
おわりに:評価の「物差し」を持つこと
練習の成果が見えにくいとき、私たちは「がんばっているのに成長しない」と感じやすくなります。しかし、その原因は「がんばり方」ではなく、「評価の軸」が明確でないことにあるかもしれません。
技術や判断は、一気に完成するものではありません。練習前・中・後で「何に取り組むのか」「どこを見て判断するのか」「どう変化が生まれたのか」を確認できるようにしておくこと。それが「評価の物差し」を持つということです。
結果や感覚に流されず、明確なテーマと判断基準をもって練習を重ねていけば、たとえすぐに成果が出なくても、自分の成長を信じられるようになります。
「できた」「できなかった」ではなく、「なにがどう変化したか」を記録していくことで、練習はより意味のあるものになります。