試合や本番になると、体が思うように動かない。練習では自然にできていたのに、いざという場面では肩が上がり、手足が重くなる。そんな経験をすると、「緊張に強くなるように」や「メンタルが安定するよう」と思いがちです。しかし、「緊張に強く」なろうとしても、そう簡単に気持ちを落ち着かせることはできません。心を操作しようとするほど、操作できない、と感じることもあるでしょう。本当の意味で「落ち着き」、緊張に強くなるためにはどうしたらよいか、考えてみたいと思います。
まずできること:すぐ試せる3つの工夫
- 呼吸に集中する
緊張しているときには、呼吸が浅く速くなりがちです。そこで、ゆっくりとした腹式呼吸に意識を向けることで、身体の緊張をゆるめ、心を落ち着かせることができます。呼吸に集中することで、思考が未来や失敗への不安から離れ、今この瞬間に意識を戻すことができます。 - ルーティンで集中のスイッチを入れる
「緊張に強くなる」ためには、試合前に「集中力を高める」ためのルーティンを決めておくことが効果的です。決まった動作や言葉をルーティン化することで、脳に「今から集中する時間だ」と知らせ、心と身体を整えることができます。たとえば、コートに入る前にジャンプを2回する、ベンチで深呼吸を3回する、試合前に決まった言葉を自分にかける、といったもので構いません。自分に合ったルーティンを見つけることで、「メンタルの安定」にもつながっていきます。 - 動作の確認ポイントを決めておく
緊張すると、普段は無意識にできていた動きで問題がないか不安になって過剰に動きをコントロールしようとして、結果として力みが生まれてしまいます。だからこそ、練習の中で特に緊張しやすい技術や調子に左右されやすい動きについて、自分なりの“確認ポイント”を明確にしておきましょう。
では、なぜこれらの工夫で改善が見られるのでしょうか。より深く理解することで本質的な変化へとつながります。
心を無理に変えようとしない
「緊張に強くなるように」「メンタルが安定するように」と試みるのに、なぜ動きに注目するのでしょうか。このようにメンタルの課題を感じた方であれば、「緊張しないようにしよう」「普段通りに取り組もう」と考えて取り組んだことがあると思います。ですが、そのように取り組んでも、やはり緊張する自分がいたり、場合によってはさらに固くなってしまうということも起きてしまいます。
心を整えようとする意図自体が、かえって意識を乱し、緊張を助長することもあるのです。そのため、心の状態を無理に変えようとするのではなく、ただ目の前の動作に集中することで、結果的に心が整ってくるのです。
動きに注目する理由とは
試合に臨むあなたは、特に一つ一つの動きを意識しなくても、無意識にプレーができるようになっていることと思います。その動きが、なぜ緊張するといつものとおりできなくなるのでしょうか。
緊張とは「これから起こるかもしれない“うまくいかない未来”を避けたい。自分でコントロールしたい。」と心が強く働いている状態です。人は誰でも無意識に“こうすればうまくいくはず”という予測を立てていますが、大事な場面ほど「失敗したくない」「ミスをしたくない」という危険予測が強まり、意識が未来に引っ張られ、頭の中が「どうしよう」でいっぱいになります。
そして、脳は予測と現実のズレを嫌う性質があるため、そのズレができるだけ起きないように、これまでは無意識で行っていた動きに対して、細かく命令を出して一つ一つの動きを意識的にコントロールしなければならない、と考えてしまいます。その結果、必要以上に動きを“管理しすぎ”てぎこちない動きになったり、力が入りすぎてしまう、ということが起きてしまいます。こうした過剰な意識が、スムーズな動きを妨げ、「力む」「呼吸が浅くなる」「動きが硬くなる」といった結果につながります。
このように理解していくと、緊張そのものが悪いわけではなく、緊張が体の動きの変化につながっている流れをコントロールすることが大事だということがわかってきます。
試合で実力を発揮するには、普段の練習での“プログラム”が再現できることが重要です。体の動かし方をどのように整えるかを、以下で詳しく掘り下げています。
👉️フォームを直しても上達しない理由と改善法
緊張を味方にする:意識の向きを変える
緊張によって、体に対して出される指示によって、身体がぎこちなくなったり、タイミングがずれたりしてしまう、ということは、その指示を正しいものにできれば、緊張していても普段と同じ動きができる、ということになります。ということは、普段の練習から一つ一つの動作を意識的に確認し、言語化して自分に指示を出す練習を積んでおくことが、緊張に備える第一歩となります。
たとえば、緊張しやすい技術や、調子の波が出やすい技術に対して、自分なりの確認ポイントを練習の中で明確にしておきます。そして、その確認を毎回の練習で繰り返すようにします。そして、もしもうまくいかない動きがあった場合、動きのどのあたりに問題があったのかを整理・言語化し、取り組むたびにそれを思い出しながら取り組むようにしましょう。つまり、自分の動きに対する指示を具体的にしておく、ということです。そうすることで、試合などの緊張する場面でも、普段と同じ指示を自分に出しやすくなり、過剰な指示を出さずに、普段通りの動きに近づけることができます。結果として、無意識で行っていた動作を適度に意識的に再現できるようになり、身体のぎこちなさを防ぐことができます。
心を直接コントロールしようとすると、「緊張」という形のない対象と戦うことになります。大切なのは、その反応を理解し、緊張をしていたとしてもいつもと同じ動きができるようになることです。
緊張という感情へのアプローチ
体に対する指示をあらかじめ明確にしておくことで、緊張してぎこちない動きや力みが出そうなときでも、普段通りのパフォーマンスを引き出す助けになります。
しかし、「動きに注目すればいい」と言われて、その通りにしようとしても、心の奥で「うまくいかなかったらどうしよう」「ミスしたら困る」といった不安や結果への期待が残っていると、どうしても身体に硬さが生まれ、反応の遅れやちぐはぐな動きにつながることがあります。
つまり、動きに意識を向けること自体は有効ですが、心の何処かで結果への執着が残ったままでは、本当に動きそのものである「今」に集中しているとは言えず、どこかに力みが残ってしまうことになります。
では、緊張という感情そのものに対して、何かアプローチはできないのでしょうか?
「諦める」
「勝ちたい」という気持ちは力の源になる一方で、その裏側には“負けたくない自分”も潜んでいます。未来の結果をコントロールしようとするほど、意識は「今」から離れ、体は硬くなってしまいます。
ここで少し考えてみましょう。「勝ちたい」「この点を取りたい」「失敗したくない」と、結果を手に入れたい、と思いますが、そう思っている、まさにその時にその結果を手に入れることはできるでしょうか。たとえば、ラケットやバットを振ろうとしている時、相手の動きを待っている時、ボールを放とうとする時、その時は、まだ結果が出ていないにも関わらず、「結果を手に入れたい」と思う心は、「結果」という未来に行っていて、今にいないことがわかります。しかし、「今」に生きている自分にコントロールできるのは、ラケットやバットを振ることであり、相手の動きを注意深く見ることであり、ボールを放つことが、コントロールできることであり、未来をコントロールすることはできません。
そのように考えると、私達にコントロールできるのは、「今」という瞬間だけであり、未来をコントロールすることは「今」を通してしかコントロールできない、ということがわかります。
「諦める」という言葉には、みなさんはどのような印象を抱くでしょうか。もともとは仏教の言葉から来ている言葉で、期待や理想にとらわれた未来のイメージから一度距離を取り、現実を明確に見つめ直す行為のことを指します。つまり、「こうなるかもしれない」「こうなってほしい」という未来への想いやコントロールしようとすることを諦め、ただ「今できること」に意識を向ける、それが正しい諦めの捉え方なのです。
未来を握りしめようとする想いを一旦脇に置いて、いま目の前の動きだけに没頭する、そのような瞬間を積み重ねると、いつの間にか結果が手に入っている、という未来にいるかもしれません。
結果を求める感情と観察について詳しくはこちらも参考にしてください。
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まとめ:理解が「整う」力をつくる
緊張をなくすのではなく、まずは仕組みを理解しましょう。体と意識のズレに気づければ、緊張は「今に戻る合図」として活かせます。呼吸を整え、動作に集中することが、“結果”ではなく“今”を整える行動になります。
大切なのは、「心を変えよう」とするのではなく、普段の練習で確認してきた具体的な動きに集中すること。結果を気にしたままでは、意識が未来に向き、動作に硬さが出てしまいます。
緊張する場面こそ、いつもと同じ動きの指示を自分に出し、「今、この動きに集中する」。それが自然と心を整える力になります。受け入れ、観察し、積み重ねることが、安定した実力発揮につながります。
メンタル強化についてはこちらも参考にしてください。
👉️「練習ではできるのに試合でできない」を抜け出すメンタル強化術
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