
部活動の指導において、「指導方法がわからない」「教え方に自信がない」と感じる先生は少なくありません。特に競技未経験の顧問や、顧問になって間もない先生が不安を感じやすいのが、「技術や戦術をどう教えるか」という部分です。
「フォームや動きを教えられない」「練習の効果が見えない」「生徒に聞かれても説明できない」──そんな悩みは、多くの先生が共通して抱えています。
でも実は、教えることのスタート地点は、“知識”ではなく「問い」と「観察」にあります。指導者がすべての答えを持っていなくても、生徒と一緒に考え、一緒に観察することを通じて、練習の質は大きく変わっていきます。
1. 「教えられない」不安は悪いことじゃない
「部活の指導方法がわからない。とりあえず続けているけど、本当に意味があるのか不安」「生徒に『なぜこの練習やるの?』と聞かれて説明できず、言葉に詰まった」
そんな悩みはとても自然なものです。完璧な知識や指導法がなければ教えてはいけない、というプレッシャーを感じる必要はありません。むしろ、そうした不安を持つことは、生徒と誠実に向き合おうとする姿勢のあらわれでもあります。
「教えられない」ことに対する不安を感じていらっしゃる、ということは、指導する側が、アドバイスや知識を伝える必要がある、という前提があるかと思います。たしかに「コツ」を伝えることで改善がされる場合もありますが、一方で生徒と課題意識・問題意識がずれたり、言葉の意味がうまく伝わらないということも起きてしまいます。
その点、問いを共有し、観察を通じて一緒に考えるという関わり方を取ることで、生徒と課題に対する意識を一致させることができます。こうして共有された「問い」に基づいて一緒に探るプロセスを重ねることで、生徒は自分自身の発見として理解し、練習への積極的な関わりが生まれてきます。
また、観察を通して生徒が「今の自分」を理解することで、様々なことがらが生徒にとっての「気付き」となり、自ら変化を生み出していくようになります。
こうした前提に立つと、「問いを一緒に持ち、探っていく」ことでこそ、取り組む本人が自ら考え、工夫し、自分のコツを発見していく、本質的な指導の出発点だと考えることができます。
「今の動き、どうだったと思う?」「うまくいかなかった原因はどこにあるかな?」こうした問いを投げかけることで、生徒自身が自分の動きを振り返り、考えるようになります。問いを軸にした対話が、思考と成長のスタートになるのです。
2. “問い”が技術指導の鍵になる
「指導をする」というとき、一般的にはアドバイスをする、と考えられがちです。たとえば「もっと強く振って」「足をもっと動かして」などのアドバイスは、ときに生徒にとって何をどう変えればよいかがわからなかったり、生徒自身の考えと異なるときに意思疎通がズレた状態になってしまいます。その結果、先生は「何を言っても聞かない」「聞いていない」と感じてしまい、生徒は「よくわからないけど、とりあえずやる」という受け身の姿勢になってしまいがちです。
しかし、生徒と「問いを共有する」ことで、課題に対する意識が一致し、互いに共通の視点で練習に臨むことができます。さらに、その課題を一緒に考えるプロセスを共有することで、生徒にとってその発見が「自分で気づいたこと」となり、より積極的な取り組みにつながります。
問いかけの例:
- 「うまくいった時と、失敗した時の違いは?」
- 「自分の動きで、気になったところはあった?」
- 「この練習で意識していたことは何?」
問いを投げかけることで、生徒は自分の身体感覚や課題を言葉にしようとします。この言葉にしようとする過程で、生徒が気づいていなかった感覚のズレや違いを発見することができ、自分自身を見つめ直す“リフレクション”になります。
問いは、指導者が生徒の内側に働きかける強力な手段です。技術を“伝える”前に、まずは“考えさせる”ことが、成長につながるのです。
3. “観察”から始める技術指導
問いと同じくらい大事なのが「観察」です。
何かを変えようとする時、「変えるべきこと」ばかりに目が向いてしまいがちですが、実はその前に大切なのは「今の自分の状態を正しく理解すること」です。指導者が一方的にアドバイスをしても、生徒自身が自分の現状をつかめていないと、それがどういう意味で、どう変えればいいのかがわからず、結果的に形だけ真似てしまう、ということも少なくありません。だからこそ、まずは「今の自分の動きやプレーのどこに課題があるのか」「何がうまくいっていて、何がズレているのか」を一緒に見つめることが必要になります。観察は、そのスタート地点として欠かせない営みです。
まずは、「今、どういう動きが起きているか」「何が変わったか」を一緒に観察してみましょう。
例:
- 「さっきと比べて、腕の振りはどうだった?」
- 「タイミング、少し早くなったかもね。どう感じた?」
観察は、結果ではなくプロセスに目を向ける力を育てます。生徒と一緒に観察し、動きを言葉にすることで、「なんとなくできた/できなかった」から、「ここができた/まだだった」へと練習の質が変わっていきます。
4. 問い × 観察 で深まる対話
問いと観察は、セットで使うことで対話が深まります。
問いで考えさせ、観察で確認し、また問いで探る。このサイクルを繰り返すことで、生徒自身が自分の変化を実感できるようになります。
例:
- 「今の動き、どこがよかったと思う?」
- 「それ、さっきと何が違った?」
- 「それって、試合の中でも意識できそう?」
このようなやりとりを重ねることで、練習が「こなすもの」から「発見するもの」に変わっていきます。
5. 指導は“教える”から“引き出す”へ
部活動の指導は、正解を教えることよりも、「生徒が自分で気づき、工夫する力」を育てることにあります。
問いかけと観察を重ねる中で、生徒は自分自身の課題を言語化し、自分で練習を調整する力を少しずつ身につけていきます。
これは、先生が技術に詳しくないからこそ可能な関わり方でもあります。「教える」のではなく、「引き出す」こと。それが、どんな先生でも実践できる、指導の土台になります。
まとめ:技術に詳しくなくても、信頼される指導はできる
「技術を教えられない」という悩みを持つ先生こそ、問いと観察を軸にした“考える指導”を始めるチャンスです。
問いを通じて生徒と一緒に考え、観察を通じて変化を共有する。そこにこそ、生徒の主体性が育ち、技術の土台が築かれます。
答えを知らなくても、一緒に問い、一緒に気づく。そんな関わり方が、信頼される指導者の姿ではないでしょうか。