やる気のない部員に困ったら?現場で効く工夫と声かけのヒント

部活動を指導していると、「声が出ない」「ふざける」「集中が続かない」「試合で力が出ない」「すぐ休む」など、やる気が見えにくい場面に出会うことがあります。「やる気がない」と片付けてしまえば楽ですが、実際にはそれぞれに理由があり、捉え方を変えたり、ちょっとした関わり方を変えることで、部員の反応ががらりと変わることがあります。

ここでは、よくあるケースごとに「何が起きているのか」を見つめ直し、「どう関わるとよいか」について、ていねいに考えてみたいと思います。


■ 声が出ない・指示を待っている

たとえば、練習中に「もっと声出せ!」と何度言っても、反応がないことがあります。でも、これは「やる気がない」からではないことも多いのです。声を出すことに慣れていない、自信がない、周りの目が気になる、そうした気持ちが重なって、動けなくなっているのかもしれません。

背景と現場での工夫

「こんなこと言ったら笑われるかも」と思ってしまう気持ちを、まず想像してみてください。声を出すのが苦手な生徒の多くは、過去に失敗した経験や、まわりから浮いてしまうことへの不安を抱えています。自分の言動がどんな反応を引き起こすか分からないとき、人はつい黙ってしまうものです。そんなときは、「声を出すことが正解かどうか」ではなく、「自分で考えて動いてみよう」と思えるような体験を少しずつ積んでいける関わり方が大切です。

たとえば、「〇〇の声かけで助かったよ」と本人にだけ静かに伝える、あるいは「今の行動、いい判断だったね」と具体的な言葉で認めることで、「自分で動いても大丈夫」という感覚が少しずつ育っていきます。また、声を出すことが「恥ずかしい」「失敗したくない」という気持ちに結びついていることもあります。過去に「変な声」とからかわれた、指示を間違えて恥をかいた、というような経験が残っている場合もあります。こうした体験があると、「正解を言わなきゃ」「目立ちたくない」と考えるようになり、動く前にためらってしまうのです。そうした気持ちに寄り添うように、「声を出す=正解を言うこと」ではなく、「自分なりに考えて発信すること」が歓迎される空気をつくることが、少しずつ安心感を育て、モチベーションの維持につながります。


■ ふざける・集中が続かない

練習中にふざけたり、周囲を気にして集中が続かない様子を見ると、「真面目にやってほしい」と思うかもしれません。でも、実は「どう取り組めばいいのかわからない」「ついていける自信がない」「練習が退屈に感じる」といった戸惑いや、「ふざけることで自分の存在をアピールしている」「本音を出せる場所が他にない」といった気持ちが隠れていることもあります。心の中では困っていたり、自分なりのやり方で存在を伝えようとしていることがあるのです。

背景と現場での工夫

本人に「もっと集中して」と言うだけではなく、「どこがやりにくい?」「さっきの練習、難しかった?」と聞いてみると、実は内容が分かっていなかったり、できているつもりでズレていたことに気づくこともあります。ふざけたり集中が続かない行動の背景には、「ちゃんとできていないのが見られるのが恥ずかしい」「わからないことをわからないと言えない」「他の人がうまくできている中で自分だけができないことを認めたくない」といった気持ちがあることも多いです。また、「自分の存在が認められていない」といった疎外感を感じている場合に、ふざけることで注目を集めようとしていることもあります。そうしたときは、ふざけている行動をとがめる前に、「どうすればこの子の存在をしっかり見て伝えられるか」を意識することが大切です。名前を呼んで役割を渡す、小さな成功を言葉にして伝える、笑顔で反応する——そうした関わりが、安心と居場所をつくっていきます。


■ 失敗を恐れる/挑戦しない

「こうやったほうがいいかな」と思っても、結局いつもどおりのやり方を選んでしまう。自分から新しいことに挑戦しない。そんな姿を見ると、「もっとチャレンジすればいいのに」と感じることがあるかもしれません。

背景と現場での工夫

「失敗したらどうしよう」「うまくいかなかったときの居心地の悪さ」があります。できることをやっている間は安全ですし、評価も安定しています。一方で、挑戦にはリスクが伴います。失敗して恥をかいたり、否定されたりするのが怖いのです。

とくに、これまでの経験の中で「失敗して怒られた」「挑戦したけどバカにされた」といった記憶があると、「やらないほうがいい」と学習してしまっている場合もあります。

こうした気持ちに対しては、「失敗しても大丈夫」「やってみようとしたこと自体が価値あること」と伝えていくことが大切です。「そのやり方、工夫したね」「新しい挑戦だったね」といった声かけを通して、「失敗=悪いこと」という思い込みが少しずつやわらいでいきます。

また、挑戦したあとにしっかり話を聞き、「どう感じた?」「何が難しかった?」と振り返る時間をつくることも効果的です。そうすることで、「やってみてよかった」「失敗しても次につながる」という感覚が育っていきます。


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■ 試合で力が出ない(固まる/雑になる)

練習ではうまくいくのに、試合になると動きがかたくなって本来の力が出ない。逆に、あせってミスが増えてしまう。こうした場面もよく見られます。指導者から見ると「いつも通りやったらいいのに」と思うこともあるでしょう。また、緊張して力んでしまう「あがり」とは逆に、「さがり」とも言えるような状態もあり、わざとやる気がない様子や調子が悪い様子を演じることで、うまくいかなかったときの言い訳を先に用意し、自分を守ろうとすることもあります。これは、勝ち負けに対する不安や、失敗によって評価が下がることへの恐れが背景にある防衛的な反応です。

背景と現場での工夫

これは、「本番」という状況に心がついていかず、不安が大きくなってしまうからかもしれません。「失敗したらどうしよう」「仲間に迷惑をかけたくない」といった気持ちが強くなると、自分の動きを信用できなくなり、体が縮こまってしまったり、逆に焦って無理な力でごまかそうとしてしまうことがあります。周囲の視線が気になったり、「うまくやらなきゃ」という思いにとらわれすぎることで、自分のペースや判断を見失いやすくなるのです。

一方で、「うまくできないかもしれない」「期待に応えられないかもしれない」という気持ちが強すぎると、自分を守るためにあえて力を抜いたようにふるまったり、「今日は調子が悪い」といった演出をしてしまうことがあります。これは、「できなかった」という事実よりも、「できなかった自分をどう思われるか」という評価への不安が強いためです。指導者としては、その演出を責めるのではなく、「本当はうまくやりたいのに怖いのかもしれない」という気持ちをくみ取る視点が必要です。

現場では、「うまくやること」よりも「今できることをやってみること」に焦点を当てて声かけをすることで、評価から少し距離を置けるようになります。結果ではなく過程に目を向け、「挑戦してみたこと」「自分なりに工夫したこと」を具体的に言葉にして伝えることが、安心して力を出しやすくなる土台になります。

こうしたときは、「失敗しても、そこから次に進める」「いいプレーより、今の判断や選択を見ているよ」と伝えることで、「うまくやらなきゃ」というプレッシャーが少しずつ和らいできます。練習の中でも、「結果よりも過程を認める声かけ」を意識して、試合で自分らしく動けるようにしていきたいところです。


■ ネガティブな発言や皮肉で雰囲気を下げる

チームの雰囲気が沈むようなネガティブな発言や、誰かを茶化すような皮肉が目立つとき、「やる気がない」「やる気を削いでいる」と見えてしまうことがあります。

背景と現場での工夫

こうした発言の背景には、「自分が傷つく前に先に茶化しておこう」という自己防衛の気持ちや、「どうせ頑張っても意味がない」という諦めの気持ちがあることも多いです。とくに、自分の頑張りが認められなかったり、何をしても評価されない経験が積み重なっていると、「本気になってもうまくいかない」と信じ込んでしまっている場合もあります。

また、自分の不安や不満をうまく表現できず、ふざけや皮肉という形で表に出てしまっていることもあります。こうしたときは、「その言葉の奥にある気持ち」に目を向けることが大切です。頭ごなしに叱るのではなく、「最近どう?なんかもやもやしてる?」といった対話の中から、その子の中で整理できていない感情に寄り添っていくと、言葉のトーンや行動が少しずつ変化していきます。


■ すぐ休む

少し動いただけで「疲れた」と言って座り込んでしまう生徒もいます。見ていると、「やる気がないのか?」と感じるかもしれませんが、実は「がんばり方がわからない」「がんばっているけど、自分で気づいていない」ということもあるのです。また、「やってもうまくいかない」「どうせ注意される」といった思いが積み重なっていると、無意識のうちに「まぁいいや」と諦めるような反応が身についてしまっている場合もあります。努力を重ねて成果につながる体験が少ないと、「がんばっても意味がない」と感じモチベーションを維持することが難しくなります。逆に、努力の結果として何かを達成できた体験があると、「またがんばればできるかもしれない」という見通しが持てるようになり、少しずつ努力の器が大きくなっていきます。器が小さいままだと、せっかくの努力もすぐに溢れてしまい、継続できなくなってしまうのです。

背景と現場での工夫

「つらい」と感じることの基準は、人それぞれで大きく異なります。ある生徒にとっては少しの運動でも大きな負担かもしれませんし、別の生徒にとってはもっと負荷があっても平気かもしれません。この感じ方の違いを周囲と共有することで、「自分だけが弱いのではないか」といった不安がやわらぎ、安心して取り組める空気が生まれてきます。

また、「どうせうまくいかない」「がんばっても変わらない」といった体験が積み重なると、無意識のうちに「まぁいいや」とあきらめてしまう反応が出てくることがあります。そうしたときには、「やってみてどうだった?」と問いかけたり、小さな成功体験を一緒に振り返ることで、「自分でも変われるかもしれない」という感覚を取り戻し、モチベーションが維持できるように関わっていくことが大切です。

たとえば、「今日はどのくらいしんどかった?10段階で言うと?」「どの場面でいちばん力使った?」といった声かけを通じて、自分の状態を振り返る習慣をつくっていくと、「ただしんどいから休む」ではなく、「疲れたけど、ここまではできそう」と考えるきっかけになります。


■ 練習で同じミスを繰り返す

毎回同じようなミスを繰り返していると、「何度言えばわかるのか」と感じてしまいますが、実際には「何を直せばいいかが具体的に見えていない」ということが多いのです。

背景と現場での工夫

自分のミスを自分で分析する力は、最初から自然と身につくものではありません。多くの生徒は、「どこをどう直せばいいのか」がはっきりつかめておらず、なんとなく繰り返してしまっていることが多いのです。そこに対して、「前と何が違った?」「今のどこに違和感あった?」といった問いかけを繰り返すことで、自分の感覚や動きに意識を向ける習慣が少しずつ育っていきます。最初は曖昧な答えでも、繰り返すうちに、自分で気づけることが増えていきます。

また、試行錯誤してもうまくいかないときには、「そこまでやっているのに…」という無力感に近い気持ちが生まれがちです。そんなときこそ、結果が出ていなくても試行錯誤を重ねている姿勢を評価することが大切です。そして、「本当の原因がすぐに見つからないのは普通のことだよ」「一緒に探してみよう」という関わり方を通じて、安心して挑戦し続けられる空気をつくることができます。

また、「失敗=怒られること」と思ってしまっていると、失敗を隠そうとしたり、次のチャレンジが怖くなります。「その失敗があるから次の練習ができるんだよ」と、失敗の意味を前向きに伝えることで、ミスを繰り返すことへの怖さが減っていきます。


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■ 遅刻・準備忘れ・用具忘れ

何度言っても遅刻を繰り返す、生徒が用具を忘れてくる、事前に伝えた準備ができていない——そんなとき、「やる気がないのでは?」と感じることもあるかもしれません。

背景と現場での工夫

こうした行動の背景には、「自分で管理する力がまだ育っていない」「何を準備すればいいかが具体的にイメージできていない」「前もって行動する習慣がない」といった理由が隠れていることが多いです。とくに部活動のように自主性が求められる場では、本人任せにしてしまうと、うまく段取りができないまま失敗を繰り返してしまうこともあります。

また、「忘れたときに強く怒られた経験」や、「何をどう準備すればいいかをあらためて確認できる雰囲気がない」といったことが、言い出せない・ごまかす・適当にやり過ごす行動につながっている場合もあります。

大事なのは、「忘れたこと」そのものよりも、「どうすれば次に準備できるか」を一緒に考えていく姿勢です。「前の日の何時に準備する?」「忘れないようにするにはどうする?」と、本人の生活リズムややり方に寄り添いながら具体策を引き出すと、自分ごととして向き合いやすくなります。また、できたときには小さなことでも「今日はちゃんと準備してきたね」と声をかけて認めることで、「自分でもできる」という感覚が育っていきます。


■ 役割の拒否/学年やレベルの断絶

たとえば下級生が雑用や球拾いを嫌がる、上級生が下級生とあまり話そうとしない、強い選手が優遇される、といった場面は、多くの現場で見られます。指示されたことを「なんで自分が」と拒否する態度や、「あの人とはレベルが違う」と距離をとるような姿勢は、単なる反抗やわがままに見えることもあるでしょう。

背景と現場での工夫

そうした行動の背景には、「自分が軽く扱われているのではないか」「バカにされているのでは」といった不安や警戒心が潜んでいることがあります。また、「頼られることに慣れていない」「年下にうまく関われない」といった経験不足や、関係性を築く力がまだ育っていないケースもあります。

さらに、不公平に感じられる仕組みそのものが、こうした態度の土台になっていることもあります。たとえば、「いつも同じ人だけがやらされている」「頑張っても評価されない」といった感覚は、表には出さなくても蓄積されていきます。すべての人に公平にすることは難しくても、「この場はどんな価値を大切にしているか」「なぜこの役割分担なのか」といった前提を丁寧に共有することによって、納得感を持ちながら取り組める雰囲気が生まれてきます。

そして、こうした場面では、「役割」を押しつけるのではなく、その意味や価値をともに考えていくことです。たとえば、「球出しが上手な人がいると、練習の質が全然ちがう」「声をかけてもらえると、助かる」といった具体的なエピソードを通して、役割の意義を共有することで、「やらされている」から「意味がある」へと意識が変わっていきます。


おわりに

「やる気がない」と見える行動の奥には、それぞれ違った事情があります。大切なのは、その背景を想像し、「どう関われば一歩前に進めるか」を考える視点です。

ちょっとした声かけ、少しだけ視点を変える工夫、それだけで生徒たちは驚くほど変わります。「やる気が見えない」と感じたときこそ、その奥にある小さなつまずきに目を向けてみてください。

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