
部活動では、初心者と経験者が一緒に活動することは珍しくありません。しかし、だからこそ指導者としては、「どのレベルに合わせて練習メニューを作ればよいのか」「全員が伸びるような設計はどうしたらよいのか」といった悩みが生まれがちです。
チームに成績や実績が求められる場面では、「勝てる選手を中心に育てるべきか」「発展途上の選手にも目を向けるべきか」といった迷いも出てきます。
この記事では、そのようなときにどのように考えるべきか、チームとしての成長と個人個人の成長をどのようにするべきか、いくつかの観点で考えてみたいと思います。
■ 練習メニューの考え方──共通テーマと基本練習の価値
基本練習の価値はレベルに関係なく重要である:動きを改善したり、新しい技術を身につけたりする際には、経験者であっても初心者と同じようなシンプルな練習に立ち返る必要があります。そのため、基礎的な単純な練習メニューは誰にとっても意味のあるものになります。
複雑な動きや判断を必要とする練習ばかりを行っても、基礎の力が不足していれば、成果につながらないことがあります。基本に立ち返ることは、決して「レベルを下げる」ことではなく、「レベルを高めるための基盤をつくること」です。
全員が同じ練習メニューに取り組む中でも、それぞれが異なるテーマや視点・課題意識を持って臨むことができれば、個々の課題に即した成長が可能になります。
経験者である選手は、複雑な練習や応用練習を希望するシーンがあるかもしれません。ですが、そういった選手も、課題を丁寧に掘り下げていくと、単純な基本練習で技術を磨くことが大きな飛躍につながります。場合によっては、各選手がどれだけ課題を改善しているか、が明らかになるような状況を作り、課題と自ら向き合うようにガイドすることも一つの方法だと思います。
取り組み例
基本的な動きや認知、判断といった”土台”は、どのレベルの選手にも必要です。だからこそ、全員が共通の練習メニューに取り組みながらも、個別に取り組む課題や視点の設定が可能です。
たとえば、「相手の動きを見て判断する」という共通テーマに対して:
- 初心者には「まず相手の動きを見る習慣をつける」
- 経験者には「相手の逆を突くフェイクを入れる」
というように、“見る”という同じ行為の中に段階をつけることが可能です。
これにより、全員が同じ練習に取り組みながらも、自分の成長課題に向き合うことができます。
■ 限られた状況でも、工夫して取り組む姿勢を育てる
どんな状況でも、工夫して自分の課題に向き合う姿勢を育てる:施設や練習時間がふんだんに確保できるのであれば、レベルのばらつきがあっても個別対応がしやすく、大きな問題にならないかもしれません。しかし、部活動では練習時間や場所が限られていることがほとんどです。だからこそ、その限られた条件の中で、いかに工夫し、自分の課題に向き合えるかが、選手の成長にとって重要な鍵となります。与えられた条件の中で、自分なりに問いを立て、試してみる姿勢こそが、長期的な成長を支える基盤になります。
たとえば施設が使えない状況であっても、戦術の確認や戦略の共有、あるいは自身の課題を言語化して振り返る時間として活用することもできます。体にクセづいた動きの改善は、むしろ競技から少し離れた環境でこそ、これまでのクセが出にくく改善がしやすいかもしれません。こうした姿勢は、どのような条件下でも工夫し、環境のせいにせずに自分の課題に向き合い取り組む力を養うことにつながります。
また、施設が使える限られた練習時間をより有効に密度の濃い練習にするために、事前に今日の練習で何に取り組むのか、今はどのような課題に取り組んでいて何をつかめてきているのか、といったことを明確にしておく準備の大切さも、選手と共有していくとよいでしょう。
さらに、ただ同じメニューを繰り返すだけでは、うまくいかないこともあります。同じ練習を繰り返しても、意識や視点が変わらなければ、新しい動きや感覚が身につかず、むしろ古いクセだけが強化されてしまうこともあります。練習は、「やればできるようになる」という直線的なものではなく、「どうすればできるようになるか」を観察・試行錯誤しながら、自分なりに工夫して取り組むものです。
取り組み例
たとえば、施設が使えないときには、戦術や戦略の理解を深めるミーティング、個人課題を言語化して記録する時間、フォーム修正のための簡易な動作確認など、環境に依存しない多様な取り組みが可能です。競技から少し距離を置いた状況だからこそ、無意識に出ていたクセから離れて修正に集中できることもあります。
また、施設が使える練習時間を無駄にしないために、各自が事前に「今日の目的」や「昨日の課題」などを明確にし、密度の高い練習に臨めるようにする準備もよいでしょう。このようにして、限られた条件の中でも成長につなげられる環境づくりを、選手と一緒に考えていきましょう。
■ チーム全体で成長する文化をつくる
お互いがお互いに影響を与えているという前提の共有:個人競技であっても、集団競技であっても、個人個人の成長によって、その成果としての成績が左右されるので、つい個人個人に対して注目をしてしまいがちです。では、チームとして活動をする、集団で練習をすることの価値はどういうところにあるのでしょうか。個人個人の能力が伸びれば、それがチームとしての総合力になる、そういうものなのでしょうか。
たしかに、試合の時点での個人個人の力を見ると、そのような見方もできるかもしれません。ですが、その個人個人の力がどのように伸びるのか、どのように学びを吸収し、課題と向き合い、自分と向き合い、思い通りにならないことに取り組んでいくのか、ということをていねいに観察していくと、そこには本当にたくさんの要素が影響していることに気付かされます。その一つの要素として、周囲にいる人の影響というものはとても大きなものがあると思います。例えば、「モチベーション」という側面を見ても、人間は一人だとどうしても怠けてしまいますが、周囲から刺激をもらえる環境があることで努力を継続する力になります。
そのように考えると、チームの一員となることは同時に、どんなレベルの選手であろうと自分の存在が周囲に影響を与え、周囲の存在から自分が影響を受ける、ということを意味します。その事実を、全員が理解することで、それぞれがチームとの関わりを感じ、自分を主体的な存在として位置づけ、それぞれの選手がチームにとって必要なことを考え、行動するように変化していきます。
自我が成長する時期だからこそ、多感で不安定な生徒たちに対して、ていねいにこうしたことを伝えていくことで、それぞれが真摯に向き合う姿勢が育まれていくのではないでしょうか。
取り組み例
一人一人の選手とコミュニケーションを取るなかで、その選手がどのような瞬間に刺激を受けていたり、あるいは「もっとがんばなければ」と感じたり、周囲からの影響を受けているかをていねいに観察しながら対話をしてみましょう。「自分が周囲から影響を受けている」という事実を体感することで、「自分も周囲に影響を与えている」ということを同時に理解していくことができます。
また、お互いがお互いの状態に対して、関わりを持つように、教え合う環境をつくることもよいでしょう。教えることは何も技術的な知識を伝えるだけではありません。たとえば、できるようになりたい動きが自分ではできているかどうかわからないとき、「今、こうなっているか見てくれない?」という会話だけでも、十分に教え合いにつながります。
そのようなやりとりの中で、「見てもらえた」「助けてもらえた」と感じた選手が、今度は自分が他の誰かを支えようとする──そうした関わり合いが、チーム内の信頼を育てます。また「自分が周囲に影響を与えている」という実感が生まれることは、主体的にチームに関わるための大切な一歩になります。
「経験がある選手だけが教えることができる」とは考えずに、互いに助け合える場を設けることで、どの選手にも関わるチャンスが生まれます。
まとめ|実力差のあるチームでどう練習メニューを設計したら良いか?
部活動を運営していると、「個」と「チーム」とのバランスに悩むときもあると思います。ですが、それは、「個人」か「チーム」かという二項対立ではなく、両方の視点を持ち、重ね合わせて考えることができるのではないでしょうか。個々の選手が成長することはチーム力を底上げし、チームの雰囲気や関係性が整うことが個人の意識やモチベーションにも好影響を与える──このように、相互に支え合いながら、全体としての成長を実現する道が開かれていきます。