
部活動で日々の練習を考えるのは、大きな負担でもあり悩みの種です。特に授業や他の業務と並行して部活を担当している先生方にとって、毎回の練習メニューを考える時間がなかなか取れず、「昨日と同じでいいか」「去年の流れをそのままに…」という状況に陥ってしまうこともあるでしょう。
さらに、指導経験が浅かったり、競技の経験がなかったりする場合は、「何を目的に、どんな練習をすればいいのか」そのものがわからず、「とにかく試合形式にすればいいか」といった形でなんとなく時間を過ごしてしまうことも少なくありません。
一つお伝えしたいのは、「同じメニューを繰り返しているだけでは、できるようにはならない」ということです。これは、多くの生徒や指導者が誤解しやすい点でもあります。“よい練習メニュー”というのは、「問いから逆算して構成される」もので、最初から完璧な形や完璧なメニューがあるわけではなく、生徒一人ひとりが自分の問いを持ち、観察しながら工夫し、その工夫をメニューに反映させる中で、徐々に“よい練習”になっていくものです。繰り返しの中で意識的に取り組み、メニューを工夫する姿勢がなければ、それは“練習”ではなく“作業”になってしまい、成長につながりません。
ここでは、「問い → メニュー・テーマ設定 → 観察 → 再び問い → 調整」という5つのステップで、練習を積み重ねる流れを具体的に紹介します。
ステップ①:小さな問いからスタートする
まず大切なのは、「どこに課題があるか?」「何に困っているか?」という問いを持つことです。
その問いを生徒と一緒に確認することで、練習の目的が明確になります。
ただ練習メニューを伝えるだけでは、生徒との課題意識がずれてしまい、「なんとなく言われたからやる」という受け身の姿勢になりがちです。一方的に伝えても、生徒が「いま何が課題なのか」「なぜこのメニューに取り組んでいるのか」に納得できなければ、変化は起きにくいのです。
このとき重要なのが、“問い”を共有することです。問いを共有することで課題への意識が一致し、「なぜこの練習をやるのか」「どうすればうまくいくのか」を生徒自身が考えるようになります。
また、問いを立てる過程では「なぜそうなっているのか?」という“なぜ”を繰り返すことで、表面的な現象からより本質的な原因を探っていくことができます。このプロセスを一緒に考えることで、生徒は課題を“自分ごと”として捉えるようになり、練習にも主体的に取り組む姿勢が生まれます。
たとえば:
- 「試合でシュートが入らない」ではなく、「試合になるとフォームが崩れてしまう」
- 「守備がうまくいかない」ではなく、「相手の動き出しに反応できていない」
といった形で、漠然とした課題を具体的な行動や動きに落とし込みます。
競技例(卓球)
- 課題:「試合になるとバックブロックが甘くなる」
- 問い:「試合ではどんな状況で面がブレるのか?何が原因でぶれているのか?」
ステップ②:テーマを積み重ねる
練習のテーマは、1回限りやそれぞれがバラバラで設定されるものではなく、段階的に積み重ねていくことが重要です。最初はできるだけ単純で、課題の改善が感じやすいテーマから始め、徐々に試合に近い条件や判断が求められる複雑なテーマへと進めていきます。テーマを順を追って設定していくことで、無理なく自然に応用力が身につきます。一貫性を持ったテーマ設定は、生徒にとっても成長の道筋が見えやすく、モチベーションにもつながります。
競技例(サッカー)
- 1週目:「相手との間合いを保った状態でパスを受ける」
- 2週目:「1タッチで次のプレーに繋げる」
- 3週目:「味方と連携した突破の判断をする」
ステップ③:テーマに沿ったメニューを考える
設定したテーマに沿って、具体的なメニューを考える際には、「この練習で何ができれば成功なのか」「どうなっていれば“合格”なのか」という視点を持ちましょう。合否の基準を明確に設定しておくことで、生徒自身が「何を目指してやればよいのか」「今できているのかどうか」がわかりやすくなります。また、練習のうちから「できていない」という体験がはっきりできるようにすることで、「どうしたらよいか」という課題に対する想いを強くすることができます。
たとえば、「相手の動きを見てパスを出す」というテーマならば、以下のような合否基準を明確にしておきます。
- 「パスを出す直前に相手ディフェンスの位置を見ているか」
- 「見た上でパスコースを選択しているか」
さらに、「今日はここまでできたらOK」という“小さな成功基準”を設けることで、日々の練習の中で成功体験を積みやすくなり、継続的な取り組みにつながります。
競技例(バドミントン)
- テーマ:「相手の体勢を見てコースを打ち分ける」
- 成功基準:「相手が崩れているときをそれを見れていたか、それを見たうえでコースを決めれたか」
ステップ④:課題に取り組みながら観察する
次に必要なのは、“観察”の視点です。
課題に取り組みながら、自分がいま何をしているのか、どういう状態なのかを意識的に見つめることが、成長の出発点になります。生徒が「自分はいま何ができていて、何ができていないのか」を自覚することで、初めて次のステップに進む準備が整います。
動きや結果だけを見るのではなく、その背景にある「認知」や「判断」、「体の使い方」も観察し、自分の状態に気づくことが大切です。
たとえばバスケットボールで「シュートが入らない」という課題に対して、指導者が「もっと膝を使って!」とだけ伝えるのではなく、「いまのフォームはどうだった?」「膝がどういう状態だった?」「どのタイミングで崩れたと思う?」と問い、本人に観察を促すことで、課題に対する納得感と主体的な取り組みが生まれます。
競技例(テニス)
- 状況:「スライスの打点が安定しない」
- 観察の視点:「打点はどこで捉えていた?打点が安定しなかった時、どこに意識が向いていた?」
ステップ⑤:問い直してメニューを調整する
もしうまくいかない場合は、そこで改めて問い直すことが大切です。「なぜできないのか?」「何が妨げているのか?」という新しい問いが、次のメニュー構成に直結します。
たとえば、バレーボールで「速攻が合わない」という課題に直面したとします。単に「タイミングを合わせよう」というアドバイスを繰り返すだけでは、改善につながりにくいことがあります。
このとき、「なぜタイミングが合わないのか?」を問い直し、観察してみると、トスの高さが毎回違っていたり、助走の開始タイミングが早すぎたり遅すぎたりしていることが原因かもしれません。そう気づいたら、まずはトスの安定を目的としたメニューに一度戻したり、助走のリズムだけに集中するようなメニューに切り替えたりすることで、問題の本質に合った練習ができます。
競技例(バレーボール)
- 初期課題:「速攻のタイミングが合わない」
- 問い:「タイミングが合わなかった時どうなっていたか?」
- 気づき:「トスの高さが安定していなかった」
- メニュー調整:「まずはトスだけ安定させる反復 → リズム練習 → 実戦形式へ」
このように、「問い → テーマ → メニュー → 観察 → 再び問い → 調整」といったサイクルを繰り返すことで、思いつきではない“根拠ある練習”が積み重なっていきます。
まとめ
練習メニューが思いつかないときは、「何に困っているのか?」という小さな問いから始めてみましょう。
そして、その問いに対して小さな目標を設定し、生徒と一緒に観察しながら取り組むことで、練習の方向性が見えてきます。
うまくいかない時は再び問いを立て直し、それに合わせて練習を調整する──この繰り返しが、実は一番の成長への近道です。
さらに、「1日ごとに考える」のではなく「テーマを積み重ねる」という発想で取り組むことで、練習内容に一貫性が生まれ、生徒も先生も安心して取り組めるようになります。
「思いつく」のではなく、「問い→テーマ→メニュー→観察→問い→調整」という流れで考える。
これが、毎日の練習づくりを支える、大切な視点です。