弱さを受け入れる強さ:感情を整えるスポーツメンタルの実践

練習では自信があるのに、試合になると急に緊張したり、いつも通りのプレーができなくなったり──そんな経験は多くの選手に共通しています。メンタルを強くしたいと考えても、努力すればするほど心が固くなり、思うように整わないと感じることもあるでしょう。本記事では、そうした「心を整えること」の本質を、感情との付き合い方という観点から考えていきます。

不安や緊張をなくそうとするほど揺れる理由

「メンタルが課題」「心を強くしたい」──そう考えて、練習や試合の中で自分の心に向き合ってきた方は多いと思います。

アファメーションを唱えたり、呼吸を整えたり、ルーティンを実行したりといったメンタル対策に取り組んでも、それでもなお不安や緊張はなくならない──そんな感覚に直面したことはないでしょうか。ないものにしようとして対策を行っていても、実際にはその「不安や緊張」はそこに存在し、むしろ強く訴えかけてくることもあります。

こうした経験は、もしかしたら“心を強くする”という目標の前提にあるものが、今の自分ではなく「心が強くなった理想の自分」を追い求めるあまり、“今の自分”を否定するように向き合ってしまっているかもしれません。

たとえば──

  • 小さな成功を喜ぶよりも、さらなる高みを求めるように促され続けた。
  • 失敗や弱音を「甘え」や「怠け」として否定される環境で育った。
  • 周囲の期待に応えることで愛情や評価を得てきた経験が多かった。

こうした体験の積み重ねは、高い目標へと努力する自分も育みますが、一方で「あるがままの自分」ではなく、「理想の姿でいなければならない自分」という感覚も生まれる恐れがあり、それはやがて、“今の自分”“弱い自分”を否定するような向き合い方へもつながっていきます。

たとえば、うまくいかない状況になったとき、「このままではいけない」「変わらなければ」という焦りから、自分を奮い立たせようとして理想像を描いたり、周囲からの期待や評価に応えようとして、自分の弱さや本音を見せないように心を固めていくこともあるかもしれません。しかし、このような向き合い方が続くと、知らず知らずのうちに「今の自分」「弱い自分」を否定し続けることになります。そしてその結果──たとえば、思うようにいかなかった時に「またダメだった」と自分を過剰に責めてしまったり、「本当は怖い」「逃げたい」といった本音すらも押し込めてしまい、感情を適切に扱えなくなってしまうことがあります。

こうした状態では、たとえアファメーションや呼吸法などの対策を講じたとしても、内側の葛藤が解消されないままなので、対策を講じてもむしろ“できない自分”を突きつけられるような感覚になって、さらに苦しさが増すように感じることさえあります。

「そんなのはただの甘えだ」「気持ちを切り替えればいい」といった反論もあるかもしれません。しかし本当に必要なのは、感情を否定したりなかったものとして扱うことではなく、その奥にある声に耳を傾けることです。弱さや不安を抱える自分を否定するのではなく、「何を守ろうとしていたのか」「何が怖かったのか」という問いを通して、その感情に意味を見出していくことが、真の変化をもたらします。

不安や緊張を力に変える思考の転換

ここでいう”弱い自分”は、例えていうならば、”影”のようなものかもしれません。影は、あなたの隣にずっと存在しています。逃げても、消そうとしても、なくなることはありません。

あなたの影はあなたと共にいて、常にあなたに寄り添っています。どんなに影を消そうとしても、走っても、戦っても、影は決してなくならないものなのです。どんなに影を消そうとがんばっても影は決してなくならないものです。そして、不安になりメンタルが弱いのが”本来の自分”であると気づくと、そこでできることは、その自分で一所懸命戦うということに尽きるという覚悟へとつながります。

影の存在を認め、受け入れ、影が自分の一部であると理解して、影と一緒に戦うと決めることです。このように受け入れたとき、そのような弱い自分が出てくること、影がいることを「前提」として捉え、そういう自分が出てくることに備えて準備をしようという試みが起きてきます。たとえば、試合でそういう自分が出てくることが「当たり前」になり、そしてそういう自分が出てきたときに「あ、また出てきているな」と気づき、そのような自分が出てくることが常であると捉えることで、「平常心」で戦うことができるようになります。さらには、頭で理想の自分を思い描いて影を見て見ぬふりをしようとすると影が大きくその存在を主張しますが、逆に影の存在をきちんと認め、見つけてあげると、影はあなたの味方としての力を発揮し始めます。たとえば、不安や恐れはあなたにリスクを予め想定する力を与え、そのための備えを行う力になってくれるかもしれませんし、緊張やプレッシャーは、あなたの集中力を高め、リスクの判断力を極限まで高めてくれるかもしれません。

現実を受け入れて整えるメンタルの構造

心やメンタルの課題を、影と捉え、それをコントロールしようとすることが逆にその課題を浮き彫りにするとしても、果たしてどうしたら心やメンタルの課題を克服していけるのでしょうか。

すでにお伝えしたように、影はそれと戦えば戦おうとするほど大きくなり、その存在を主張し始めます。ですので、そこで取りたい一歩は、影という感情やメンタルの波が訪れた時、それを静かに観察し、受け止める、「観察」です。

 「ただ観察する」と言われると、「本当にそれで変われるのか?」「ただ見ているだけで、意味があるのか?」と思われるかもしれません。私たちは何かをよくしたい、改善したい、強くなりたいと思って、日々努力することが当たり前だと思っています。でも、思い出してみてください。これまであなたが自分を変えようとしたとき、どれだけの場面で、「できない自分」「まだ足りない自分」を責めるように見つめてきたでしょうか。そして、その視線の中にあったのは、「今ここにいる自分」ではなく、「なってほしい自分」だったのではないでしょうか。

 観察することは、諦めることではありません。変わらないことを受け入れることでもありません。評価や判断を手放して、ただ心の動きや体の状態を観察すると、これまで気づいていなかった小さなサインが見えてきます。そうした自分の“影”に気づいた瞬間、影は自分の存在が認められたことに安心し、不思議なことに、影が持っていた強さも同時に見えてくるのです。

 自分を責めず、操作せず、否定も肯定もせず、ただ、見つめる。それは弱さを超えるためではなく、自分という存在に静かに立ち返るための「観察」なのです。

たとえば、ルーティンを行うときに、「影をコントロールし、弱さと立ち向かおう」という意識で取り組むと、無意識のうちに“今の自分”を否定し、“理想の自分”に近づこうとする意識が強まります。その結果、意識が「今」にとどまらず、「あるべき自分」や「なってほしい自分」へと引っ張られ、ルーティンが形骸化してしまいます。しかし、影の存在を否定せず、今の自分の状態を丁寧に観察しながらルーティンに取り組むと、意識は「今ここ」に根づきます。観察という行為がルーティンに内在することで、自分の状態に気づき、整え、落ち着いて今を過ごすことができるのです。

このように、観察は感情や状態をただ把握するだけでなく、それによって自分の現実に根ざした行動が選べるようになる、非常に具体的な技術なのです。「不安をなくすため」ではなく、「不安を抱えた自分でどう過ごすか」を知ること。これこそが、影とともにあるということの本質なのかもしれません。


観察についての詳しい記事はこちらも参考にしてください
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まとめ

「影」は、あなたの内側に確かに存在する“もうひとつの自分”です。この存在に目を向け、否定せずに受け入れることができると、感情を押さえつけるのではなく、行動に変えていく力として活かすことができます。

影とともにあるとは、自分を責めたり、なかったことにしようとしたりせず、「今の自分」を出発点として選択と行動を整えていくことです。

影の存在をコントロール対象ではなく共に歩む存在として捉え直すことで、自分自身の感情や状態への理解が深まり、ルーティンやメンタル対策もより本質的な意味を持つものに変わっていくでしょう。その積み重ねは、緊張や不安の中でも揺るがない土台を育て、静かな自信と集中力を生み出していくのです。


感情については、こちらの記事も参考にしてください。
なぜ感情が起こるのか、その背景についての考察はこちら
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