練習メニューに正解はない:効果的練習構成を作る3ステップ

効果的な練習方法や練習構成を探して実践したけれど、チームや選手に変化が見られない。もしそうだとしたら、本当に必要なのは、個々の練習メニューではなく、『できない理由を特定し、その原因から練習を逆算して組み立てる視点』かもしれません。本記事では、技術練習・練習メニュー・反復練習の効果を、スポーツにおける学びの仕組みの観点から考え、指導者が明日から実践できる練習改善サイクルを提案したいと思います。

この視点は、練習しているのに伸びない理由を「努力不足」ではなく「仕組みの問題」と捉えるものであり、部活指導のコツやチーム指導における実践にも直結します。さらに、観察技術・観察と問いの技術・フィードバック方法をベースにした指導方法として、選手の成長プロセスを根本から変えていくものです。


■ 練習しても伸びないのは“努力不足”ではなく“仕組み不足”

多くの指導現場では、「とにかく繰り返せば上達する」「練習量をたくさん取り組む」と考えられたり、「フォームを直す」「フットワークをよくする」というかたちで練習が構成されがちです。しかし実際には、練習は、その練習が何を目的としていて、その練習で何をどう改善するか、改善しているかどうかをどのように確認し、改善されていない時はどう調整するかという仕組みを持っているかどうかが大事なポイントです。反復練習が効果を発揮するのは、良いプレーや精度の高い動きができるようになっているものをさらに安定させていきたいときに有効な練習となりますし、強度の高いメニューであっても、学習の段階に合っていなければ成果は限定的になります。つまり、技術が安定しない・練習しても伸びないといった悩みの背景には、そうした練習の組み立てや構成そのものに問題があることが少なくありません。

練習がうまく機能していないチームには、次のような共通点があります。

  1. 何を伸ばしたいのかが曖昧なまま練習が進んでいる
  2. 原因が動作なのか、見えていないことなのか、判断なのかが整理されていなかったり、何を改善するための練習なのかがあいまい
  3. 負荷のレベルが選手の今の状態と合っていない

このまま練習を続けても、成長が止まったり伸び悩んだりするのは自然なことです。つまり、どんな技術練習をするかよりも、練習の目的や条件、そして組み立てをどう設計するかの方がはるかに重要なのです。


■ 練習テーマに落とし込む考え方

何を練習のテーマにするべきか、を考えるときに大切なことは、今の選手の上達や改善を邪魔しているものや課題の原因となっているものは何か、という視点です。ですが、たとえば勝てない理由、試合でうまくいかない理由を考えてみても、あいまいになってしまったり、原因がよくわからないままになってしまいがちです。最初から原因を特定しようとするのではなく、状況を整理してから原因を考えてみましょう。

■ ステップ1:うまくいかない場面・改善したい場面を明らかにする

最初に、ミスをしたり、うまくいかない場面を明らかにしましょう。たとえば、

・動きは悪くないように見えるのに、なぜかミスが続く

・試合になると急に慎重になり、判断が遅れる

・練習ではできているのに、本番で再現できない

・本人の意図とプレーの結果がかみ合っていない

・メンタル・経験・理解度・体力…全部の原因が混ざっているように見える

最初から、原因が特定できるものではありません。このように、原因が複雑に見えてどれをテーマとして取り組めばよいかわからないのは、当たり前のことです。なぜならば、一つの結果が生み出されるのには、原因は一つではなく、複数の場合もあれば、原因の原因がある、というように複合的に組み合わさっている、というのが実際なので、すぐに原因にたどり着かないことは普通のことです。

■ ステップ2:課題を解決したい場面や技術を具体的にする

原因を明らかにしていくために、まずはどんな場面を解決したいのか、どの技術が問題となっているのかを具体化することが重要です。抽象的に「技術が安定しない」「素早く対応ができない」と言っても、練習テーマには落とし込めません。まずは、次のような問いで場面と技術を特定し、解決したい課題が“いつ・どこで・何が起きているのか”を整理していきます。

A:いつ(タイミング):ミスが起きたのは、どのようなシーンか?(または、技術が改善すると、試合でどのようなシーンで変化が起きるか?)

B:どこで(位置・距離):自分はどの場所にいたのか?相手はどの場所にいたのか?

C:誰に対して(相手やボールの特徴):相手はどのような動きだったか?どのようなボールだったか?

D:何が起きたか(現象の具体化):どのような動きをしていたか?タイミングや場所は合っていたか

これらのポイントを押さえておくと、場面の輪郭が一気に明確になり、次の分析に進むための土台ができます。

■ステップ3:課題の原因を特定する3つの視点

状況を整理できたら、そこからさらに一歩踏み込み、その状況がどのように生まれていたかを整理していきます。スポーツにおける動きは、実はとてもシンプルな流れとして、「状況を認識する → 判断する → 動きを作る」という要素に整理することができます。これはどんな競技でも共通しており、選手が無意識のうちに行っているプロセスです。つまり、課題が生まれた状況や改善したい状況に対して、それをどのように認識し、どんな判断をし、実際にどう動いていたのかを丁寧に整理して、理想の流れとどう違うのかを比べていくことで原因がはっきりしていきます。

具体的には、次のような視点で掘り下げていきます。

● 認識(何が見えていたか)

  • 相手の動きは見えていたか?どのくらい正確に細かく見てそれをわかっていたか?
  • ボールのスピードや軌道はどう見えていたか?どのくらい正確に細かく見えてそれをわかっていたか?
  • 自分の状態や動きがどうなっているか理解できていたか?どうなっていたか?それをわかっていたか?

● 判断(そのとき、何を選ぼうとしていたか)

  • その状況に対して判断をしていたか?どのような判断をしていたか?
  • その判断は、いつ決めたか?なぜそう決めたか?
  • 判断の背景にはどのような感情があったか?

● 動作(その判断に対してどう体を動かしたか)

  • 判断に基づいて、理想の動きを意図できていたか?意図したとおりに動きが作れたか?
  • 意図したとおりに動きが作れなかったとしたら、それはなぜか?
  • 理想の動きと自分の実際の動きを比べて、自分の身体のどこがどう違いが出ていたか?

これらを明確にすると、ひとつのミスの中でも「どの段階にズレがあったのか」が見えるようになり、本当の原因へとつながる“橋渡し”になります。これらを掘り下げるときには、うまくできているときと比較して考えることで、課題が明らかになりやすいです。たとえば、

  • うまくいっている時は“どこが見えている”のに、ミスの場面では見えていなかったのか?
  • 普段なら“どのタイミングで判断している”のに、なぜその場面では遅れたのか?
  • 良い時には“どんな動作”ができていたのか?その場面ではどこがどのように違ったのか?

この“比較”によって、選手も自分のズレに気づきやすくなり、次にどんな練習テーマを設定すれば良いかが、より正確に導き出せるようになります。


原因を明らかにしていくための問いや観察の方法についてはこちらも参考にしてください。
👉️問いと観察から始める技術指導──経験がなくてもできる“考える指導”のすすめ


■ ステップ4:テーマへ変換する

状況を整理し、その状況がどのようにして生まれていたのかが明らかになってきたら、“練習で扱えるテーマ”へと整理していきます。大切なのは、表面に現れた結果だけを見て「技術の問題だ」「メンタルの問題だ」と決めつけず、なぜそのような課題が表れたのかを明らかにしていきましょう。先程整理した項目に沿って、以下のような課題設定を行うことができます。

  • 認識→何をどう見ておくべきだったか?なぜそのように見れなかったのか?
  • 判断→どんな選択肢があり、どう判断すべきだったか?
  • 身体→動きが理想とどのように違ったのか?それはなぜか?

■効果的な練習に必要な考え方

ここまでのステップで課題の正体が見えてきたら、次に大切になるのが「どのように練習を組み立てるか」という視点です。原因が整理できていても、練習の設計が曖昧なままでは、選手の課題は改善されません。効果的な練習設計には、次の3つのポイントが欠かせません。

  1. 1テーマに集中する:一度に多くを直そうとすると、学習負荷が分散し、習得が進みません。テーマを一つに絞ることで、選手の注意が一点に集まり、改善が加速します。
  2. “今の難しさ”を分解する:選手が抱える課題は「新しく身につけたい取り組み」と「実行」というかたちで整理することができます。それらを切り分けることで、何が難しさを生んでいるのかが明確になります。
  3. スモールステップの調整をする:できないのは能力不足ではなく、”できるための条件が整っていない”ことがほとんど。練習の条件を調整し、成功しやすい状況をつくることが練習の構成を自然に形作っていきます。

以下では、この3つを順番に解説していきます。

●1テーマに絞る

「一度にいくつも直そうとする」と、選手の注意は分散し、どれも中途半端に終わります。

たとえばサッカーで「トラップ・パス・視野・ポジショニング・判断」を同時に改善しようとすれば、どれも意識が薄まり、現場で起きている改善ポイントが見えにくくなります。

だからこそ、練習テーマは認識・判断・動きの中の1点に絞ってテーマとして設定しましょう。たとえば、野球のピッチャーなら「肘の使い方」を学びながら「投球のコースを狙う」ことを同時に行うのは非常に難しい。バスケットで「新しいステップワーク」を習得しながら「ディフェンスの位置を読む」ことも同時には処理しきれません。テーマを1つに限定することで、選手は「今は認識の改善に集中するのか」「判断のタイミングを整えるのか」「動作そのものを滑らかにするのか」が明確になり、注意が分散しません。その結果、脳が処理すべき情報量が減り、集中しやすくなり、習得スピードが大きく高まります。

●“今の難しさ”を分解する

テーマを絞り込んだら、改善したい要素にできるだけ集中して取り組めるようにメニューを考えてみましょう。このときに、「新しい取り組み」と「それを実践する条件」というかたちで整理してみましょう。

これを整理することで、練習の構成や流れを作っていくことができます。たとえば、バスケットボールで「新しいステップ」を身につけたい場面であれば、まずは“ステップそのものの習得”に集中し、ディフェンスを抜く場面は切り離して考えます。たとえば、まずはボールを使わずにステップを練習する、次にボールを使いながらゆっくりとしたスピードで取り組みながら、「どの足をどの方向へ出すか」「重心がどこにあると安定するか」といった自分の動きに意識が向けられるように取り組みます。そのうえで、動きが安定してきたら、ディフェンスの人に立ってもらった状態で練習する、実践できてきたらディフェンス荷動きを加える、さらには次に“抜いた後の動作”としてシュートモーションを別メニューで確認する、というように段階を分けて扱います。

●スモールステップの調整をする

できないことをできるようにしていくために重要なことは、困難な状況でがんばることでは、なかなか新しい取り組みが身につかないという点です。“身体のプログラム”という観点でも説明できるもので、人の動きは、既に身についている古いプログラムのほうが優先して起動しやすく、負荷が高い状況ではなおさらです。難しい条件で練習すると、脳と身体は生存や成功確率を優先し、慣れた動き=古いプログラムを自動的に使おうとします。そのため、新しいプログラムを書き換える前に、古い動きが強く再生されてしまい、結果として新しい取り組みがほとんど定着しません。

まずは新しい取り組みが“できている状態”を優先して実現し、その状態が保てる条件までいったん易しくしてから、ほんの少しずつ段階を上げていきます。

たとえば、サッカーで新しいターン動作を習得したい場合、最初から相手プレッシャーの強い状況で行うと、選手はターンよりもボールロストの回避に意識が向き、正しい動作を身につけることができません。まずは無圧の状態で動作の形を安定させ、それが保てるようになってから、ゆるいプレッシャー→限定的な対人→実戦速度…と条件を調整します。

このように、新しい取り組みが安定して実行できている状態を常に基準とし、その基準が崩れない範囲で条件を調整することで、スモールステップは正しく機能し、習得の精度とスピードが大きく高まります。


スモールステップでの練習メニュー設計についてはこちらも参考にして下さい。
👉️上達の近道は遠回りに見える——小さな結果を積む理由


■ 観察 → 仮説 → 修正が“練習改善サイクル”を回す

練習の構成を、課題の場面から整理し、認識・判断・動きのどこにズレがあるのかで原因を見立て、その原因に対してスモールステップで練習を構成するような流れを作ってきました。

このステップで取り組みながら、選手の反応や変化を確かめ、当初課題だと思っていたことが改善しているかどうかを確認しながら、当初の原因の見立てが正しかったのか、それとも別の要因が隠れていないか、も確認してみるようにしましょう。

どんなに良い練習メニューであっても、原因の見立てがズレていれば成果につながりにくくなります。だからこそ、一度立てた原因を固定するのではなく、スモールステップでの改善の過程そのものを使って、見立てを再検討しながら進めることが重要です。

練習改善サイクルは次の通りです。

  1. 観察:どこで成功し、どの段階でつまずいているかを細かく見極める。
  2. 仮説:認識・判断・身体のどのステップがズレを生んでいるのかを整理し、改善の方向性を設定する。
  3. 修正:そのステップが“できる状態”になるように条件や負荷を調整しながら、仮説が正しいかを確認する。

この流れを繰り返し、課題が改善しているかどうかを確認しながら取り組むことで、誤った方向性に進むのを防ぐことができます。もしも原因の見立てが違った場合には、再び観察を行う中で違う見立てを調整し、必要に応じてテーマを再設定して取り組みましょう。


観察について詳しく解説をした記事はこちらも参考にしてください。
👉️観察で努力と結果が変わる。観察からはじまる上達の循環


■ まとめ:効果的な練習は“仕組みから作る”

練習をうまく構成するためには、ただメニューを考えるだけでなく、選手の動きや結果の裏側にある身体・認知・判断のどこに原因があるのかを丁寧にたどることが出発点となります。そして、その原因に対する改善の取り組みを、選手が成功しやすい条件を整え、段階を細かく調整するスモールステップこそが、練習の構成の本質と言えます。そして、観察→仮説→修正という流れを通して原因の見立てを常に検証し続けることが、チーム全体の成長スピードを底上げします。

効果的な練習方法を求める指導者にとって重要なのは、メニューの量や種類ではなく、練習によって何が学ばれるかを適切に設計できることです。これこそが、技術練習・練習ドリル・メンタル強化・継続的な成長を一つの線で結びつける、指導者の根幹となる力です。

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