
試合のあと、こんな感覚が残ることはないでしょうか。
- 相手の動きは見えていたはずなのに、一歩遅れた
- フェイントに引っかかったわけじゃないのに、体が止まった
- 反射神経が悪いのか、集中できていないのか、自分でもよく分からない
きちんと相手を見ているのに反応できない、と感じると、その原因は、「足の速さ」「反射神経」「集中力」というものに求めがちですが、「本当の原因に触れないまま頑張り続けてしまう」と努力の罠にはまってしまうかもしれません。
しかし、これまで反応が遅い本当の理由|反射神経に頼らずに改善する方法・なぜ距離が合わないのか?|努力しても安定しない「時間×場所」の問題で見てきたように、間に合うかどうかは身体能力だけで決まるものではなく、「時間を、きちんと確保できていたか」「技を出すための場所を、事前に見立てられていたか」といった要素で決まるものであり、「時間 × 場所」の奪い合いによって決まってきます。
そして、できるだけ早く適切な場所を見立てるために必要になってくるのが、その土台となる 「観察」と「予測」です。
「観察」と指摘されたとしても、「自分は見れている」と感じる方もいらっしゃると思います。ですが、本当にわずかな動きの変化にいち早く気付けるような見方ができていたのか、という視点で振り返ってみると、「見ていたつもりなのに、実際には必要な情報を見られていなかった」という可能性も考え、まずは「観察ファースト」で振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。
実は、反応が遅れる場面で多く起きているのは、
「見えているつもり」だけど「見えていない」
という状態が起きています。これは視力の問題ではなく、意識の向き・考え方・予測の置き方の問題です。「見えている」けど「見えていない」とはどのようなことなのでしょうか。
反応のプロセスを分解して、改善点を探す
反応というと、「刺激が来て、反射的に動くもの」と思われがちです。しかし、もう少していねいにそのプロセスを見てみると、多くの場合、次の流れで起きています。
- 何に注意を向け、変化を捉えられているか(意識の向き)
- 変化を捉えて、「こうなりそうだ」と仮の予想を立て、その予想をもとに次の動きを準備する(予想と準備)
- 実際の変化に合わせて動き出す・修正する(修正)
ここで大切なのは、「反応」という言葉で一括りにしないことです。曖昧にせず、どこが詰まっているのかを分解して可視化する――それが、上達の地図を描く第一歩になります。
たとえば「反応が遅れた」と感じる場面でも、
- そもそも注意を向ける対象は合っていたか
- 予想を立てるのは遅れていなかったか
- 立てた予想は合っていたか?予想の誤りにいつ気がついて修正したか
等、何が課題であったかによって、改善すべきポイントはまったく異なります。
例を挙げると、
- 相手の動きに気づくのが遅れた選手は「観察」の問題
- 動きは見えていたのに動きが作れていなかった選手は「予想と準備」の問題
- 動きの変化に対応できなかった選手は「予想の修正」の問題
というように分解できます。
このようにプロセスを分けて振り返ることで、
何となく反応が遅い
という状態から、
何が原因で遅れたかが分かる
状態に変わり、努力が再設計されていくので、改善点は驚くほど具体的になります。
それでは、一つずつ確認していきましょう。
① 何に注意を向けているか(意識の向き)
「反応が遅れた」と感じるとき、問題は最後の動きではなく、その前の段階である「気づき」が遅れることで、動き出しが遅れていることがほとんどです。
たとえば、反応が早い人は、
- 相手の体がわずかに沈んだ
- 足の向きが少し変わった
- ボールの速さや回転を正確に見抜いている
といった小さな変化に気づいています。そのような変化に気づくことができると、次に起こる展開をいち早く予想することができるので、動き出しが自然と早くなります。
そして、反応が遅れやすい人ほど、
- 正しく予想しなければならない
- 間違えたくない
- できるだけ外さない判断をしたい
と考え、その結果、予想に時間をかけすぎてしまう傾向があります。
一見すると慎重で良さそうに見えますが、スポーツではこれが裏目に出ます。なぜなら、予想に時間をかけている間は、
次の動きの準備が始まっていない
状態だからです。
相手はその「まだ決めていない時間」を狙って動いてきます。変化が起きてからようやく考え始めると、その時点で物理的に間に合わなくなります。
だからこそ大切なのは、予想の正確さよりも、予想を早く置くことであり、予想を性格にしようとする努力を反復したとしても、結果的に盲目的反復の罠に入ってしまいます。
予想は当てるためのものではなく、
準備を早く始めるための仮置き
です。早めに置いた予想は、間違っていれば修正できます。しかし、予想を置くのが遅れれば、修正する時間そのものが残りません。
②どのように予想と準備をしているか(予想と準備)
変化を正しく観察して見抜くことができたら、次に必要となるのが、その変化に基づいてどのようになるか予想をすることです。「予想」というと、多くの競技者は、
予想は「正しく」しなければならない
という考えがちです。
この考えを持っていると、頭の中では次のようなことが起きがちです。
- 間違えたらどうしよう
- もう少し情報を集めてから判断したい
- 確信が持ててから動きたい
その結果、予想を立てること自体に時間がかかり、気づいた時にはもう自分の技を準備する時間が残されていない状態になってしまいます。完璧に予想しようとすればするほど、その予想に対応するための自分の時間が限られてくるので、主導権が奪われやすくなってしまいます。
ここであらためて押さえておきたいのは、間合いで大切なのは「時間 × 場所」の奪い合いである、ということです。
その視点で見ていくと、限られた時間の中で戦わなければいけないスポーツにおいて、正しく正確であることも必要ではありますが、正確でいようとするあまりそこに時間をかけ過ぎてしまうと、もう間に合わなくなってしまいます。
予想とは
動きの準備を、少しでも早く始めるため
のものであるはずで、早めに準備や動きを始めるために予想を使ってこそそこに意味が生まれます。
そして、予想を正しいものにしようとするのではなく、間違っているかもしれない前提で予想を捉えることで、自分の予想を過剰に信じすぎず、間違っていたら予想をし直す姿勢へとつながります。
観察した変化で予想を見立て、動きの準備を先に始めながら観察は続け、もしも観察できていない変化を見出したり、予想の誤りに気づいたら、すぐに修正する。このように、
- 早く予想し、
- 予想は外れる前提で使いながら
- 外れたらすぐ直す
というかたちで、「間違えない練習」ではなく、間違いを材料に更新していく探索的学習フェーズだと捉え、不完全でも早く予想を置き、修正しながら使い、ことが、間に合う反応を生み出す土台になります。
③ 変化を観察し、対応しているか(修正)
「フェイントに引っかかる」「逆をつかれる」といった時、一般的には「反応が遅い」「判断ミス」とされがちですが、もう少しその過程を丁寧に見てみると、あらかじめ「こうではないか」という予想を立てていたものに対して、その予想をしていないケースが起きていることを考えると、その原因は立てた予想にこだわり過ぎてしまうことにあるのではないでしょうか。
たとえば、
- この体勢ならストレートだろう
- さっきと同じ展開になるはずだ
と信じすぎてしまうと、その予想に合う情報だけを見ようとしてしまいます。実際には相手が微妙に変化していても、その変化を観察できず、結果としてフェイントに遅れたり、逆を突かれたりします。
たとえば、「警戒しているコースだけを見る」「自分の望ましい展開だけを予想する」「過去にやられた動きだけを見る」といったかたちで、見たいものだけを見ているケースもあれば、「この体勢なら来ないだろう」「まだ大丈夫だろう」といったかたちで、自分の見たいように現実を意味づけしてしまうケースもあります。
いずれのケースでも、自分の中での予想を固定することにより、観察が不十分になり、変化に気づかないまま進行して、気づいたときにはもう間に合わない、ということになってしまいます。
大切なのは、予想は立てるが、それは間違うかもしれないという前提に立つことです。予想を「当てにいく答え」にしてしまうと、現実がズレた瞬間に対応できません。一方で、
仮の予想を置きつつ、現実を見て更新し続ける
という姿勢を持てると、予想が外れても修正が間に合います。
反応が早い人は、予想を信じ切っているのではなく、
自分の予想が間違っている可能性を、常に残したまま見ている
という、ある意味とても謙虚な構えを保っています。
振り返りのポイント|反応を改善する
改善のカギは、振り返り方にあります。
次の順で整理します。
- どこをどのように見ていたか、そして本来どこをどのように見るべきだったか
変化や状況への対応が遅れがちな時、特にこのポイントを振り返ってみましょう。自分がその場面で、最初に何をどのように見ていたかを思い出します。そして、反応に必要な変化がいつどのように起こっていたのか、それにどのようにしたら気づけたのか、自分が見ている時に頭の中で気にしていたことや考えていたことは何かを振り返ります。 - いつどのような予想を立てていたか、そして本来はいつ予想を立てるべきだったか
決して怠けているわけではないのに、動きが遅れてしまう時、予想をいつどのように立てていたか、そして予想にも基づいた行動を始められていた振り返ってみましょう。そして、予想や行動をもっと早いタイミングで始める方法はないか、本来その時間帯にどのようなことに意識を向けていたかを振り返ります。 - 予想と実際がズレたとき、いつそのズレに気づいたか、そして修正できたか
予想と実際の変化が異なった時、その変化に気づけていたかどうかを確認しましょう。予想と異なる変化や事態が起きた時に、自分の予想がはずれることも想定の範囲に含めながら動きを始められていたのか、自分の意図や判断、そして現実に見えていたことを振り返ります。
ここで大切なのは、答え合わせをすることではなく、まずは自分がどのように取り組んでいたかをありのままに観察することです。「動き出しが遅れたから、見れていなかったのだろう」「うまく変化に対応ができなかったので、予想がはずれたのだろう」と、結果から推測して事実を作り出すと、本当に解決すべき課題が隠れてしまいます。「決まると期待していて準備できていなかった」「予想をしていなかった」「なんとなく見ていた」「正しく予想しようとして長く見ていた」といった、自分の至らなさそのままを振り返り、それが、どのように反応へのお遅れにつながっていたかをできるだけ事実ベースで観察することで、間違えを正しく見つけることができ、きちんと間違えを見つけられたときこそ成長へと歩み始められます。
まとめ|反応を早くする鍵を整理する
反応が遅れたり、反応できないとき、「反射神経」と一括りに考えがちですが、もう少していねいに「観察」や「見立て」等といった要素に分解すると、何が課題で反応が遅れているのか、反応ができていないのかが明らかになっていきます。課題が明らかになったら、その課題が発生した時間帯に自分がどのような取り組み方でいたのか、意識がどこに向けられていたのか、を振り返ってみましょう。
反応を早くするとは、何かを付け足すことではなく、本来使えるはずだった時間や気づきを取り戻すことでもあります。見えていなかったものに気づけるようになると、反応は自然と間に合うものへと変わっていきます。
反射神経や才能の問題として片付ける前に、まずは「自分は何を見て、いつ予想し、どのタイミングで動こうとしていたのか」を丁寧に振り返ってみてください。その積み重ねこそが反応力を育てていきます。
