上達のために鍛えたい“問い”の力

競技に取り組む中で、多くの選手や指導者が課題に直面します。そうしたシーンに対して、適切な問いを立てていくことで、問題を紐解き、現状を理解し、前へ進む力になります。一方で、それをそのまま放置すれば、堂々巡りに陥ったり、思い込みによる自己否定につながってしまうこともあります。だからこそ、その場面で「どんな問いを投げかけるか」が重要になります。問いは、思考を前向きにほぐし、観察や行動の視点を切り替えるための起点です。ここでは、ありがちなシチュエーションを整理し、それぞれに役立つ問いと、その問いが必要となる視点を紹介します。


1. 「努力してるのに成果が出ない…」「続けてるのに伸びない」

「毎日練習してるのに全然結果が出ない…向いてないのかな」と感じるとき。自分なりに頑張っているつもりでも、目に見える成果が出ないと、気持ちはどんどん沈んでいくものです。

状況・問題:努力は重ねているのに、結果が表れず、空回りしているように感じる。成果が見えないと自己否定や無力感につながりやすい。
原因:成果を「勝敗」や「順位」といった外側の指標だけで測ろうとしているため、日々の小さな変化を捉えきれていない。取り組み方の正しさを検証せず、量や根性に偏ってしまうことも多い。
必要な視点:今の努力がどのように自分の目標や手に入れたい結果につながっているかを考える視点。小さな進歩や積み重ねに目を向ける視点。大きな成果ではなく、小さな変化を見つけることで「前に進んでいる」という実感が持て、継続の力につながる。また、努力が正しい方向に向いているかを検証する視点も必要。自分の行動が改善につながる要素と結びついているかを確認することで、効率的に成長できる。

  • 問い
    • 「できるようになったこと」として言語化できるのはどこか?
    • 成果が出ていないと感じるのはなぜか?どうなると「できるようになった」「成果が出た」と感じるか?そのために、これまでに足りなかったことはなにか?
    • これまでの取り組みを振り返り、どのように取り組んでいたら成果が出ていたと思うか?
    • 今の努力は、自分の手に入れたい結果にどのように結びついているのか?
    • 自分の課題解決のためにどのような取り組みが必要か?
    • 今の努力が「量」だけに偏っていないか?工夫や方法を変える余地はあるか?
  • 狙い:順位や勝敗のような外的成果だけで努力を測らず、「できたこと」「変化したこと」を言葉にして可視化する。小さな前進を発見し続けることで継続のエネルギーが生まれ、努力が“意味のあるプロセス”へと変わる。また、努力と目標のつながりを定期的に点検し、方向がずれていれば方法を微調整する。

2. 「練習ではできるのに試合だとミスばかり」「大事な場面で崩れる」

「普段は打てるのに、試合になると急に入らない」「緊張して足が動かなくなる」。そんな経験、誰にでもあるはず。練習と本番の間にある“見えない壁”が、思うように実力を出せない原因かもしれません。

状況・問題:練習ではできているのに、試合や緊張する場面になると失敗が増える。練習と試合が切り離されていると、本番で力を発揮できない。
原因:練習環境が限定的で、実戦を想定した条件やプレッシャーが不足している。そのため「できる」の再現性が低く、試合環境に適応できない。
必要な視点:条件の違いや再現性を見極める視点。練習と試合での環境や心理的条件を洗い出すことで、意識の持ち方や技術の使い方を調整しやすくなる。

  • 問い
    • なにをもって「できる」と感じているか?練習でできていないときがあるとしたらどういうときか?
    • 練習で、試合と同じようなシチュエーションをどうやったら作れるか?そのシチュエーションをつくったときに、実際に「できる」か?
    • 試合でできなかったことやミスが生まれた状況を練習するためにどのような工夫ができるか?
    • 大事な場面や緊張した場面に備えるためにどのような練習ができるか?
    • 練習で「うまくできた」ときと「できなかった」ときの条件の差はどこにあるか?
  • 狙い:練習と試合の差(環境・時間・相手・自分の心理)を具体化し、どの条件で“できる/できない”が入れ替わるかを特定する。違いがわかったら、意図的にその条件を練習へ持ち込んで訓練する。プレッシャー下で機能する合図(呼吸・視線・キュー)や手順を設計し、試合で実践できる状態をつくる。

3. 「結局、何が悪いのか分からない」「答えが見つからなくて、成長してる気がしない」

「何を直せばいいのかも分からない」「なんとなく停滞している気がする」。そう感じているとき、がむしゃらに頑張っても前に進んでいる実感が持てず、不安だけが募っていきます。

状況・問題:課題が特定できず、同じ問題を繰り返してしまう。原因を曖昧にしたままでは停滞感や不安が強まる。
原因:原因分析が抽象的で、「気持ち」や「根性」といった曖昧な説明に頼ってしまうことが多い。具体的な観察や検証を行わず、思い込みで結論を出してしまう。
必要な視点:思い込みを外し、事実を観察する視点。曖昧な推測に頼らず、実際の動きや結果を確認することで、真の原因を特定しやすくなる。

  • 問い
    • うまくいかないと感じたとき、動きや体・意識はどうなっているか?力み、注意の方向、心の状態はどのような状態だったか?
    • 原因だと思うことは何か?それに取り組んだとき、意識しながら取り組めていたか、意識して取り組めていたとしたら結果はどうであったか?
    • ゆっくりの動きや簡単な動き、簡単な練習で実践して、観察しながら取り組むと、できていないときは何が起きているか?
    • できているときとできていないときで、どこが違うか?
    • 自分が考えた原因以外に、うまくいかない原因はないか?どちらが優先度が高いか?
    • 自分が考えた原因のさらに原因はないか?
    • 答えだと思って、一所懸命取り組んでいるけれどなかなか改善しないことはないか?それがもし答えではないとしたら、考えられる原因はなにか?
  • 狙い:結論を急がず、観察→仮説→小さな試行→振り返りの短いサイクルで検証する。事実を分解して“どこからできていないのか”を線引きすれば、改善の狙いが絞れる。原因は一つに決めつけず、優先度の高い要因から順に実験し、改善が見られた要因を次の基準にする。

4. 「試合前に緊張で頭が真っ白になる」「ここ一番で固まってしまう」

「本番前になるとお腹が痛くなる」「勝ちたい気持ちが強すぎて体が動かない」。普段はできていることが、試合になるとできなくなる…。そんな“本番の壁”に直面している人へ。

状況・問題:大事な場面になると体も心も硬くなり、普段の力が出せない。先のことを考えすぎて集中が乱れると、本来の動きが制限される。
原因:意識が未来に飛び、結果や失敗への不安に支配されることで、現在の動作や感覚に集中できなくなる。準備段階で「本番を想定した練習」が不足していることも影響する。
必要な視点:現在に意識を戻し、身体感覚を整える視点。思考を未来から今へ戻すことで、緊張の影響を小さくし、身体の自然な動きを取り戻せる。

  • 問い
    • 今、自分の呼吸・身体・意識はどうなっているか?
    • 練習中に似たようなプレッシャーがかかる状況設定をするためにどういう工夫ができるか?プレッシャーがかかった状況に取り組んだとき、心や身体はどうなっているか?
    • 緊張しているとき、意識はどこに向き、何を考えてしまっているか?
    • 緊張を感じたとき、その時できることに意識を向けるためにどのような工夫ができるか?
  • 狙い:結果の予測や他者からの評価に向いた注意を、“いまここ”へ戻す。呼吸・身体への観察・一言のセルフトークなどの手がかりを用いて整え、普段どおりの動きを再現する。

5. 「最近なんで競技やってるのか分からなくなる」「やる気が起きない」「モチベーションが続かない」

「なんでこんなに苦しい思いしてまでやってるんだろう」「もう辞めてもいいかな」。ふとした瞬間に湧いてくる、意味の喪失感。そんなときは、自分の中の“原点”を見つめ直すタイミングかもしれません。

状況・問題:日々の負荷や結果へのプレッシャーで、競技の意味を見失いかける。続ける理由が見えなくなると、モチベーションは大きく揺らぐ。
原因:取り組みの目的が「勝つこと」や「評価されること」に偏りすぎると、自分の内側にある価値や楽しさを見失いやすい。結果が伴わないとき、意味の空白が生じやすい。
必要な視点:価値や動機を問い直し、意味を再発見する視点。自分にとって競技が持つ意味や得たい経験を再確認することで、苦しい時期にも取り組むエネルギーを得られる。

  • 問い
    • 自分が喜びだと感じる瞬間はなにか?
    • 成長を感じる瞬間はどういうとき?
    • 苦しいと感じる理由はなにか?
    • 今の状況を楽しいと思える人がいるとしたら、それはどういう考え方、捉え方をしているか?
    • 自分の中だけで感じる喜びはなにか?
    • 苦しい状況なのに続けている理由はなにか?
    • 今の取り組みを通じて、自分が得たいものは何か?
    • 競技を通じて自分が実現したい価値や目標は何か?
  • 狙い:外からの評価中心の動機から、自分にとっての価値や喜びへ焦点を戻す。「自分は何を得たいのか・どうありたいのか」を言語化し、日々の行動と結びつけることで、結果に左右されない持続可能なモチベーションへとつなげる。

6. 「どうせ自分にはできない…」「自分だけできていない気がする」

「周りの選手はどんどんうまくなってるのに、自分は全然…」「またダメだった」。そんなふうに自分を責めてしまうとき、必要なのは“自分を追い詰める問い”ではなく、“自分をひらく問い”です。

状況・問題:周囲と比べて劣等感を抱き、自分の可能性を狭めてしまう。自己否定が強まると行動の選択肢が狭まりやすい。
原因:周囲との比較ばかりに意識が向き、自分の成長や課題を冷静に捉えることができていない。成果を急ぎすぎて「今できていること」に気づけなくなる。
必要な視点:できない理由ではなく、できる可能性を探る視点。失敗や不足を「まだの段階」と捉えることで、改善の余地を認識し、前進のきっかけをつかみやすくなる。

  • 問い
    • 過去の自分と比較して今の自分はどうなっているか?
    • 自分にとって周囲を比較するメリットは何か?
    • 何と比べているのか?比べるメリットはどういうところにあるのか?
    • 何をもって「できている」と感じるのか?
    • 「できる」ようになるために、今足りていない点はなにか?
    • 自分が「できるようになった」と言える瞬間はどんな時か?
  • 狙い:『できない』で止めず、『まだできていない』という時間軸の視点に切り替える。過去の自分との比較で変化を拾い、次の一手(最小の改善)を具体的にする。小さく試して“できる条件”を増やしていく。

7. 「人からどう見られているかが気になる」「失敗が怖い」

「ミスしたら恥ずかしい」「下手だと思われたらどうしよう」。そんなふうに“他人の目”が気になりすぎて、自分らしいプレーができなくなっていませんか?

状況・問題:人の目が気になってチャレンジできなかったり、自分を出せずに終わってしまう。評価を過度に気にすると、自分の選択やプレーが制限される。
原因:他者からの評価に意識が偏り、自分が得たい体験や挑戦の意味を置き去りにしてしまう。失敗を「自分の価値の否定」と結びつけてしまうことが多い。
必要な視点:評価の外側に視点を置き、自分の体験に集中する視点。他人の視線を気にせず、自分がどうありたいかを基準に行動することで、挑戦に向き合いやすくなる。

  • 問い
    • 誰からもほめられないとしたら、どういうプレーをしたいか?
    • 自分だけにしかわからないかもしれないけれど、自分のことをほめてあげたいとしたらどういう点か?それをさらに増やすためにどうしたらよいか?
    • この場面で自分にとって大事にしたい価値は何か?
    • なぜまわりの目を気にしてしまうのか?
    • 他人の視線を気にせずに行動できたらどんな挑戦をしたいか?
  • 狙い:評価の内側から一歩外へ出て、自分の価値基準(どう在りたいか)に立ち戻る。失敗を“自分の価値の否定”ではなく“データ”として扱い、次の行動に翻訳する。学びに安全地帯をつくることで、挑戦量が増え、成長速度が上がる。

問いは、今の自分の状況や感情、行動を“観察するためのレンズ”であり、次の一歩を見出す“足場”です。問いがあることで、悩みは問題として構造化され、改善へのプロセスが始まります。日々のつぶやきや迷いを放置せず、そこに問いを添える習慣が、結果として自分自身の成長を後押ししてくれます。

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