結果を変える振り返りの技術

振り返りは、スポーツで上達するために欠かせない行為です。自分が取り組んできたことを見直すことで、何ができていて、何ができていないのかを確認でき、次の成長へとつなげることができます。しかし、ただ振り返るだけではなく、振り返るための視点を整理すると、より的確に成長へつなげることができます。

ここでお伝えしたいのが、「鳥の目」「虫の目」「魚の目」という3つの視点を切り替えながら振り返る方法です。鳥の目は全体像を俯瞰する視点、虫の目は細部を観察する視点、魚の目は流れや時間軸を捉える視点です。自分のうまくいっていないことの何が問題なのか、原因は何なのかがわからなければ改善はされませんし、限られた時間の中で何に取り組むのかを的確に判断しなければ試合までに間に合わないかもしれません。3つの視点を取り入れることで、振り返りに多様な角度を持ち込み、成長を安定して積み上げることができます。


虫の目 ― 細部に注目する

課題を改善するためには、課題の原因を解決することが大切ですが、解決するためには課題を小さく分解していくことで、何が本当の原因となっているのか、どこに改善の余地があるのかを見極め、本当の原因を見つけていくことができます。そのために必要なのが、虫の目の視点です。

動きや技術の中で、うまくいかない部分をそのまま大きく捉えるのではなく、うまくいかない部分をさらに小さな要素に分解して、原因を一つ一つ探しながら取り組みます。例えば、強い力が発揮できない場合、「力が足りない」「フォームが悪い」などとひとまとめに考えるのではなく、今はどのように力を発揮しようとしているのか、どこに力が入りどこの力が抜けているのか、生まれた力はうまく伝えられているのか、といった具合に、原因をより小さく、具体的に分析します。この分解によって、何が問題であるかが明確になり、次にどこを改善すれば良いかが見えてきます。小さく分解するのは、動きだけではなく、自分がどのようなプロセスで判断をしているか、いつ気づいているか、といった、時間やプロセスといった要素も細かく分解することで、本当の原因を見つけていくことができます。

また、課題を小さく分けることには、スモールステップという上達のための重要なアプローチも含まれています。虫の目の視点で、小さい課題に取り組み、一つずつ順を追って修正していけば、着実に進歩することができます。改善をしっかりと感じることで、自分の変化や成長を実感しやすく、自信もつきやすくなります。

問いかけ

  • あなたの今の課題はどのようなことですか?その課題は、どういう要素に分けることができるでしょうか?
  • 今の課題がどのようなプロセスで生まれていますか?どのような要素で作られていますか?
  • 動きが遅れてしまうとき、いつ動く必要性に気づいていますか?もっと早く気づくためにどうしたらよいですか?

鳥の目 ― 全体を俯瞰する

鳥の目は、全体像や構造を捉える視点です。空から地形全体を見渡すように、練習や取り組みを全体の流れや位置づけで見直します。目の前のプレーや技術の細部だけでなく、「どんな戦い方を目指しているのか」「自分の土台はどの程度できているのか」「今取り組んでいることがどのように試合での戦い方につながっているのか」といった大きな視点で自分を見つめる力です。

また、自分を少し外側から眺め、自分を客観的に見つめる視点でもあります。体の動きや感情を上から見つめるような視点で観察することで、正しい視点で課題を見つけることができます。たとえば、練習や試合の中で、うまくいかない原因が自分でもはっきりとわからない時には、うまくいったときとそうでないときを比較したり、自信を持てず不安になるときにはこれまで積み重ねてできるようになってきたことを確認する、といったかたちで取り組んでみましょう。

自分を客観的に捉える力があることで、
①その場の判断や行動が妥当だったかを冷静に検討でき、素早く修正できる
②感情と事実を切り分けて捉えられるため、焦りや自己否定の連鎖を止めやすい
③緊張や不安のサインに気づき、呼吸・間合い・ルーティンで自分を整え直せる
――といった心の面でのメリットも得られます。

また、こうした視点を持つことで、自分の取り組みを自分で確かめられるようになり、外からの評価に一喜一憂せず、安定した自分を育てることができます。失敗をただの失敗で終わらせず、学びとして扱えるので、集中を取り戻すまでの時間が短くなり、プレッシャー下でも再現性のあるパフォーマンスに近づきます。

問いかけ

  • 今取り組んでいる練習のテーマは、試合でどのような場面で活きてくるものでしょうか?その場面で、他に取り組んでおくべき課題はないでしょうか?
  • 試合で自分を客観的に観察できる時間を作るためにどういう工夫をしたらよいですか?

魚の目 ― 流れで捉える

魚の目は、川の中を泳ぐ魚のように流れを感じ取って捉える視点です。

試合や練習でうまくいかなかった時、ありがちなのは「今回の結果をどう改善するか」だけに目を向けてしまい、それまでに自分がどのような積み重ねをしてきたのか、どういう変化を起こせていたのか、あるいは変化を起こせなかったのかという視点が抜け落ちてしまうことです。そうすると、単発の結果だけを見て、良い・悪いと評価し、短期的な反省や修正だけに終始してしまうため、本質的な成長につながりにくくなります。

魚の目の視点を持つことで、過去から現在にかけての自分の取り組みを時間軸で見直すことができ、課題がなぜ課題として残ってしまったのか、それまでにその課題をどのように捉えていたのか、それはなぜなのか、を客観的に把握することができます。結果を一時的な出来事としてではなく、流れの中での一つの現れとして捉えることで、これまでの取り組み方をどう変えたら良いのかを明確にすることができます。これがもしも、「今回の結果をどう改善するか」という視点だけで振り返ると、対症療法的な対応に終わってしまいます。表れた課題は改善できるかもしれませんが、もしも取り組み方に変化がなければ、姿形が変わるだけでまた違った課題が表れることになります。そうした根本的な課題への向き合い方を振り返ることで、これまでの取り組み方のくせ、自分がどう変化しようとしてきたかに目を向け、単なる結果の改善ではなく、土台からの修正が可能になります。

問いかけ

  • 今の課題は、いつから現れていて、それに対してどのように向き合っていたか?
  • この数週間・数ヶ月の取り組みの中で、やってきたことは今の結果にどう影響しているか?
  • 今の課題が、これまでの取り組みの中で改善していなかったのはなぜか?どのように取り組みをしていたら、課題が解決できていたか?

視点を行き来する

視点を変えて考えることの大切さをお伝えしてきましたが、これらの視点を一つに固定してしまうと、見落としや偏りが生まれてしまいます。細部に集中しすぎると全体の流れを見失い、全体ばかりを見ていると具体的な改善ができず、これまでの取り組み方を踏まえて今を見なければその場しのぎの改善になってしまいます。3つの視点を行き来しながら取り組むことで、細かい技術の課題が試合全体の中でどう活きるのか、今の課題はどのような取り組み方により生まれてきたもので、それをどのように改善することで未来の課題を未然に防ぐようにできるのか、といったことを整理しながら取り組むことができ、日々の取り組みの質が高まります。また、視点を行き来することで、思い込みに気づきやすくなったり、自分の状態を多角的に捉えることができるようになり、より深い理解と安定した成長につながっていきます。

まとめ

3つの視点を活用した振り返りは、単なる反省にとどまらず、自分自身の成長プロセスを理解し、未来の改善へとつなげていくための重要な手がかりになります。それぞれの視点が持つ役割と限界を理解し、場面に応じて柔軟に行き来することが、自分の状態を深く理解し、より良いパフォーマンスを引き出す土台になります。

「うまくいかない理由がわからない」「なぜか成長していない気がする」と感じるときほど、今回の内容を思い出し、どの視点が不足していたのか、視点の行き来ができていたかを見直してみましょう。それによって、今必要な視点が見え、次に取るべき行動が明確になるはずです。

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