
距離感が合わない。詰まる。どうしても距離がズれる。
そんなとき、多くの競技者は、
- 「もっと足を動かさなければ」
- 「距離を合わせるためのがんばりが足りない」
- 「もっと早く移動しなければ」
といったように、努力量神話に引き寄せられ、「もっと頑張れば解決する」と考えがちです。
あるいは、
- 「フォームで対応しよう」
- 「どうすればそういう時に対応できるだろう」
と、その場しのぎの対処法を探し始めることもあります。
真面目で努力家な選手ほど、距離が合わない状況を「何とかしよう」として、その結果、状況を整理しないまま考えない努力をしたり、努力の儀式化に陥ってしまうことがあります。足を動かし、タイミングを合わせ、フォームを整えようとする。その姿勢自体は間違っていません。ただ、そうした努力を重ねても距離感が安定しないとき、本当の問題は「努力量」や「意識の低さ」ではない可能性があります。
多くの場合、距離感が崩れる本当の原因は、「どこで・いつ技を出すつもりだったのか」が曖昧なまま動いていることにあります。
この記事では、「距離が合わない」「詰まる」距離感が掴めない」といった課題が起こる原因を整理したうえで、そのような時に陥りやすいパターンを紹介しながら、改善策を考えていきたいと思います。
間合いの正体は「時間 × 場所」の奪い合い
スポーツは本質的に、自分が技を出せる時間と場所を確保するゲームです。
反応の話では「時間の使い方」が重要でしたが、距離感の問題では、そこに場所が加わります。
距離感が合わない状態とは、言い換えれば、相手に「場所」を奪われている状態です。
たとえば試合中、こんな場面はないでしょうか。
- 相手に押されて下がり続けている
- ボールに合わせに行く展開が続く
- 相手のテンポに動かされている
頭の中では、
「相手が速くてついていけない」 「ボールが伸びている」 「どうしても間に合わない」と感じているかもしれません。たしかに距離が合っていない時点に注目するとその見立ては間違っていませんが、捉え方を変えると「そのように見立てられていなかった」という前提があるために、相手やボールに場所を決められている状態になっており、その結果、自分が打ちたい場所で技を出せなくなるのではないでしょうか。
このように、距離がズレたとき、人は大きく二つの方向へ走りやすいという点です。
- 努力で何とかしようとするパターン
- その場しのぎで何とかしようとするパターン
一見、どちらも正しい対策に見えますが、「時間×場所の奪い合い」という構造を見落とすと、ズレを拡大させやすくなります。
【努力で何とかしようとするパターン】距離感が崩れるのは「足りない」のではなく「ズレている」
距離感が合わない場面を思い出してみてください。
- 少し近づきすぎて詰まる
- 遠くて泳いでしまう
- 入ろうとして動きが止まる
このとき、頭の中ではこんな言葉が浮かびがちです。
「ちょっと遅れた」 「もう一歩だった」 「足が止まった」
すると原因を「足りなかったもの」に求めてしまいます。しかし実際には、どこに入るべきかが決まらないまま動いているケースがほとんどです。
距離感が崩れるのは、努力が足りないからではなく、 適切な場所を見立てられていない状態で動いているために、結果としてズレが生じているのです。
適切な場所を見立てられていないのに、このまま「もっと努力すれば解決する」と考え続けたとしても、不可能なことを実現しようとしていることになり、実現できないのでさらに努力を続ける、といった努力の罠に入りやすくなります。
距離感は「合わせるもの」ではなく「先に見立てるもの」
距離感が安定しない競技者ほど、プレー中にこう考えています。
「来たところに入ろう」 「だいたいこのあたりにくるだろう」
一見、柔軟で対応力があるように見えますが、これは結果に対して後追いで対応している状態です。
実戦では、
- ボールは毎回同じではない
- 相手は意図的に崩してくる
ため、「来てから合わせる」では必ず遅れます。
距離感を安定させるために必要なのは、
- この展開ならこのようになるので、
- このあたりの空間でこの技を出す
という先行した場所の見立てです。
距離が合わなかった場面では、 「どう動けばよかったか」ではなく、 「どこで勝負するつもりだったか」といった見立てを振り返ることで時間を味方にしていくことができます。
ここを振り返らず、足やフォームだけを努力でなんとかしようとし続けると、プレーは受け身になり、距離感は安定しません。
【その場しのぎで何とかしようとするパターン】でも、間合いが崩れたら?
努力で何とかしようとしてもうまくいかないと、多くの競技者は次にこう考えます。
「どのようなフォームであれば対応できるのか」
確かに常に完璧な間合いを保つことは不可能であり、そのような時にフォームや技で対応をしようとすることは大切です。
ですが、重要なのは、そのフォームがその場しのぎになっているのではなく、自分の技の本質をきちんとおさえたかたちで発揮できているかどうか、という点です。
大切なのは、**対応すること**と**自分の技を発揮すること**の両方を成立させることです。そのためには、距離が崩れた状況でも技の質を保つために、最低限何を守るべきかをクリアにしておく必要があります。
たとえば、多くの競技において、体の軸は、最低限おさえるべき項目以外を削ぎ落としていったときに残るものでしょう。距離がズレたときに、小手先で調整しようとすると、軸が崩れ、次の動作にも影響が出まが、逆に、軸を保ったまま対応できるかたちを模索することで、距離が多少ズレても、技を「成立」させることができます。
対応に追われると「意図」が消える
距離を合わせることに必死になっているとき、頭の中では、
「とりあえず返そう」 「ミスしないように」
といった言葉が支配的になり、プレーは次第に
- 威力が出ない
- 選択が遅れる
- さらに崩される
という悪循環に陥ります。
**相手は最初から、こちらが思い通りにプレーできない状況を意図的につくろうとしています。距離が合わない、思った場所に入れない、準備が間に合わない──それは特別なことではなく、むしろ「起きて当たり前」の状況です。
だからこそ大切なのは、思い通りにいかない中で、自分は何をしたいのか、どうしたいのかという意図を持ち続けることです。
厳しい状況に振り回されるだけでなく、自分の技を発揮するためには、そのような状況下でも意図を失わず、何を成立させたいのかを自分の中で持ち続けることが必要です。その意図があるからこそ、対応と技の発揮を両立させる判断や動きが生まれ、自分の技を発揮することができるようになります。
距離感を改善するための振り返りと訓練
距離感は、ズレを感じたときに振り返って鍛えていきましょう。まずは次の3点に分けて振り返ります。
- 場所の見立てを、いつ、どのくらい正確に見立てようとしていたか
- 立てた見立ては合っていたか?
- 見立てた場所にはいつまでに移動するべきか明確だったか?それまでに移動できていたか?
- 見立てと実際は合っていたか?ズレていたらそれにいつ気づいたか?
- ズレがあったとき、そのズレに気づき、対応をしようとできていたか?
- ズレへの対応をする時、技は適切に対応し、自分の技の質を保ったまま発揮できていたか?
特に、努力でなんとかしようとするパターンの方の場合は、1や3の「見立てを立てていたか」「見立てた場所に間に合うように移動できていたか」、その場しのぎでなんとかしようとするパターンの方の場合は、5と6の「見立てとのズレに気づいていたか」「ズレに対して技の質を保とうとして対応ができていたか」に注目してみて下さい。
このように取り組む時、たとえば「見立て」をしようとしたら、見立てを間違うことが起こるでしょうし、「ズレと技の両立」をしようとしたら、うまく成功しないことが出てくるでしょう。しかし、その課題が明確になってこそ、失敗の地図が描かれ、改善するための第一歩を踏み出していることになります。課題がきちんとあらわになる練習でこそ上達するので、課題を明らかにして、その課題に対してきちんと改善した動きや対応ができるように、取り組みましょう。
まとめ|距離感はセンスではなく「見立て」で決まる
距離感が合わない原因は、
- 足の速さ
- 反射神経
- フォームの細部
ではありません。
多くの場合、問題は
- 技を出す「場所」を先に見立てられていない
- 相手や状況に「場所と時間」を決められている
ことにあります。
距離感とは、後から必死に合わせるものではなく、どの時間帯に、どの空間で、自分は勝負するつもりだったかという意図と見立ての技術です。
努力で何とかしようとするのか、 その場しのぎで対応しようとするのか。
その分かれ道に気づき、見立て・意図・技の本質を整理できたとき、距離感は安定し始めます。
次の記事では、この見立てを支える対人競技における観察と予測を掘り下げていきます。
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