
試合に出ている方や実戦を戦っている方であれば、戦略や戦術について、一度は真剣に考えたことがあると思います。 勝ち筋を描き、「今日はこういう展開でいこう」と試合前に頭の中で組み立てた経験がある人も多いはずです。
それでも、いざ試合が始まると──
- 考えていた戦略のとおりにできない
- 戦略をやってみたのに通用しなかった
- 判断が遅れたり、迷いが生まれて戦略が実行できない
そんな感覚が残ることはないでしょうか。
このとき多くの人は、「戦略が悪かった」「メンタルが弱かった」と考えてしまいます。周囲からも、そのように指摘されることが少なくありません。
ですが、本当に戦略に問題があったのでしょうか。
戦略を考えるときには、戦略自体の内容を考えると同時に、その戦略が実践できるようするための前提を整える必要があります。この記事では、戦略戦術ができない理由を、
- 実現できない戦略戦術を考えていないか
- 事実よりも期待を込めて戦略戦術を考えていないか
- 戦略戦術を実行するかどうかをどのように決めているか
という視点から整理していきます。なぜ戦略が「使えない状態」になってしまうのか、その構造を紐解いていきたいと思います。
戦略戦術ができないのは「戦略」の問題ではない
戦略を立てているのにできないときの、よくある誤解
戦略や戦術について考えていると、多くの人は頭の中で試合をシミュレーションします。そのとき描いているのは、「うまくいっている自分」「理想どおりに組み立てられている展開」であることがほとんどではないでしょうか。
相手の対応が計算通りに甘くなったり、自分の技が理想したとおり通用したりしていて、頭の中では、戦略通りに”実行可能”なものとして再生されています。けれども一度立ち止まって考えてみてください。 そのシミュレーションの中での自分は、
- 本当に試合でよく起きる展開や「思い通りにいかない展開」で考えているでしょうか
- 緊張した場面で起こる遅れや心の状態、迷いも含めて想定できているでしょうか
- 想定通りに展開しない時に、どのような選択をするかまで決められているでしょうか
このように向き合う時、頭の中で再生されているのは「現実の状況」ではなく、自分に都合の良い「理想の状況」であることがわかります。
そのため、想定した展開と実際の試合とのあいだに、大きな隔たりが生まれます。
このズレの正体が、再現できない勝ち方を、無意識のうちに戦略として採用してしまう構造です。
「うまくいけば強い」「決まれば流れが変わる」。そうした“正しそうな戦略戦術”を想定していると、実際の試合で、思い通りに自分の技や動きが発揮できなかった時に戦略が実行できず、結果として考えていた戦略は試合の中で選択肢にならない、という結果になってしまいます。
「戦略が悪い」と思い込んでしまう構造
試合後に、どのように戦っていたらよかったかを振り返るとき、場合によって「もしあの場面でこれができていたら」「あの判断ができていたら」という たられば の形で戦略を考えてはいませんでしょうか。
このように振り返ることは、たしかに今後の練習の計画や改善をしていくための手がかりとしては有効ですが、一方で戦略戦術が正しかったかどうか、という視点で考えるならば、少し違った意味合いになってきます。
振り返りをする時、たられば、の形で戦略を考えている、ということは、その時のその場面での自分の状態や技術、実際に選べた行動が置き去りにされ、その時はできていない技や判断・精神状態を土台にした「理想の戦略戦術」で試合を見つめることになります
本来振り返るべきなのは、「もしできていたら」ではなく、その時のその状況で、自分が実際にできていたことで、どう戦っていたらよかったかを振り返ることが正しい戦略戦術の考え方であり、現実の選択肢だけを材料にして戦い方を見直すことで、次につながる振り返りになります。
振り返りをすることはとても大切なことですが、「どのようにしていたらよかったか」という“正解の探し方”を間違ってしまうと、問題の焦点はズレていきます。
戦略戦術は、土台となる「技」と「動き」があって初めて成立する
できない技を前提にした戦略は存在しない
戦略というと、「どんな展開にするか」「どこを狙うか」といったイメージが先行しがちです。
しかし本来、戦略とは今の自分ができること、それも試合というタフな状況でも自分にできることを材料にして組み立てるものです。
- 成功率が低いプレー
- 試合になると動きが間に合わない対応
- 調子が良い日だけできる技
これらは、頭の中では魅力的でも、試合中の安定した選択肢にはなりません。
再現できない戦術は、「机上の空論」であって、戦略とは呼べないのです。
技や動きの制限が、選べる戦術の制限につながる
たとえば、トップの選手の戦略戦術から学びを得て、実践してみようという方もいるかもしれません。しかし戦略戦術は、自分のできることによって組み立てるものだ、ということが見えてくると、上手な選手や強い選手の戦略戦術も、その選手のできる技や動きがあってこそ成り立っているものだと考えることができます。
逆に言えば、実際に自分が試合で実践できる技と動きを組み立てることで、自分の戦略戦術が決まってくる、ということになります。
想定通りには進まないことを踏まえて戦略戦術を考える
期待を込めた戦略戦術になっている
さらに、練習の中で「できる」と思っている技や動きをベースに戦略戦術を組み立てる時、立ち止まって確認したいのは、頭の中で「できる」と思っている技や動きが、本当に試合の中で再現できるものかどうかです。
たとえば練習では、相手のボールがある程度読めていて、準備も間に合い、落ち着いて打てているとします。その感覚をもとに「この展開なら主導権が取れる」と戦略を描くことは自然です。しかし試合では、自分の思い通りに体が動かないことや、できると思っていたことができないことも珍しくありません。そのように考えると、練習で「できる」と思っていた前提もよく確認する必要があります。
また、自分が想定した展開が、その想定が外れた場合にどのように対処するのか、まで考えておく必要があります。多くの人は、戦略を考えるときに「この形に持ち込めたら」という理想の展開を基準にします。しかし現実の試合では、相手はその形に持ち込まれないように工夫し、対応を重ねてきます。たとえば、チャンスが来ると思っていた展開でもなかなか来なかったり、あるいは逆襲されたり、ということも十分に起きるでしょう。
戦略戦術とは、理想通りに進んだ場合だけを描くものではありません。想定通りにいかない場合に、その時点で自分ができる選択肢は何か、どのようにしたら戦い続けられるのかを含めて準備しておくことが戦略です。
選べない状況で、人はメンタルを持ち出してしまう
試合では、想定通りに進められないことが当たり前に起こります。緊張や不安によって体の動きが硬くなったり、普段なら迷わない場面で判断が遅れたりすることも珍しくありません。その結果、どれだけ戦略戦術を考えていても、実行できない状態に陥ってしまいます。
たしかに、「自信がない」「気持ちが弱い」から戦略戦術が実行できなかったと捉えられますが、もう少していねいに起きていたことを観察してみると、実際にはメンタルの乱れによって判断や選択にブレが生じ、その結果として戦略戦術が実行できなくなっていた、という姿が見えてきます。
ここで一度、振り返ってみてください。試合中に迷いが生まれたとき、あなたの中には「どちらを選ぶか」を判断する明確な基準やルールがあったでしょうか。それとも、その場の感情や流れに引っ張られながら選択していたでしょうか。
もし判断や選択のルールが事前に明確になっていなければ、メンタルが揺れた瞬間に、その揺れによって判断が変わってしまっても不思議ではありません。逆に言えば、ルールが明確であれば、メンタルがぶれたときに「今、自分はルールから外れた選択をしようとしている」と認識することができます。
戦略戦術を実行できなかった理由を「気持ちの問題」で終わらせるのではなく、判断や選択のルールがどこまで明確だったのか、そしてそのルールを意識できていたのかという視点で捉え直すことが、次につながる整理になります。
こうして考えると、「メンタルを強くする」という努力の方向も一つですが、状況判断と意思決定のルールを事前に明確に決め、そのとおりに実行ができているかどうかという形で戦略戦術を実践することも可能だとだと考えられます。
この考え方については、次の記事で詳しく整理していきます。
まとめ|戦略戦術がハマらないのは、あなたの能力の問題ではない
戦略戦術がハマらないとき、それは戦略戦術の内容が問題ではなく、戦略戦術の前提やどう使うか、という準備が足りないのかもしれません。
- 頭の中では成立しているが、試合では再現できない勝ち方を前提にしていなかったか
- 正解を出そうとするあまり、その場で実際に選べる選択肢を見失っていなかったか
- 起きていた事実よりも、「こうなってほしい」という期待で戦略を組み立てていなかったか
戦略戦術とは、理想のプレーを描くためのものではなく、今の自分が置かれている現実の中で、どう戦い続けるかを整理するための道具です。
そして、メンタルの乱れによって戦略が実行できなかったと感じた場面も、見方を変えれば「判断や選択のルールがどこまで明確だったか」を見直すサインだったと言えます。
次の記事では、「できる戦略」と「できない戦略」の境界線をより具体的に整理し、
- 何を戦略に含めるべきで
- 何を最初から選択肢から外すべきか
を明確にしていきます。
