テニスのシングルスは、単なるラリーを超えた戦略的なゲームです。勝利を手に入れるためには、相手との駆け引きや、自身のパフォーマンスを最大限に引き出すための組み立てが欠かせません。今回は、シングルスの組み立てを行うために、必要な要素として、「時間と場所」「強みと弱み」「自分のショットの確率や精度」をそれぞれ解説し、自分の組み立てを考えるための方法を解説したいと思います。
時間と場所
テニスに限りませんが、ほとんどのスポーツは「時間」と「場所」について争うものだと考えられます。
テニスについて言えば、相手が戻る前に相手のいない場所に打ち、相手が追いつけないようにすればポイントを取ることができます。相手から時間や場所を奪うことができればポイントが取れますし、相手に時間や場所を奪われればポイントを取られてしまいます。
シングルスの組み立てを考える時には、つい「場所」に意識が向いてしまい、相手のいない場所を狙ったり、ラインギリギリを狙うように考えてしまいがちですが、「時間」に対する意識も持つようにしてみましょう。
特に組み立てをするときにおすすめしたいことは、相手から時間や場所を奪うことも大切ですが、自分が奪われないようにすることも大事だということです。
例えば、相手に良いコースにボールを打たれ、コートから追い出されてしまった時に、自分が速いボールを打ってしまうと、もちろん相手から時間を奪う可能性もありますが、自分の戻る時間が奪われる可能性もある、ということを理解することが大事です。
相手から時間と場所を奪おうとすることと同時に、自分が時間と場所を奪われないようにする、という視点で組み立てを行うことが大事であり、かつ、優先して考えていただきたいのは、まず最初に自分の時間と場所を奪われないこと、です。テニスは、ミスをすると負けてしまうスポーツですので、まずは自分の優位が奪われないように組み立てを考えましょう。
強みと弱み
次に、自分自身の強みと弱みを明確に把握することが大切です。
孫子の兵法には、「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」という言葉があります。
自分の強み・弱みを知り、相手の強み・弱みを整理することで、失敗をしづらいシングルスの組み立てができるようになっていきます。
強味と弱味を整理するときは、次の要素について、自分の強みか弱み、そして相手の強みか弱み、考えてみましょう。
・ショットのスピード
・ショットの正確さ
・ショットの安定性
・動きの速さ
・守り(ポジション位置)の位置取り
各ショットそれぞれについて、これらの要素を整理してみるとよいでしょう。
例えば、フォアハンドストロークは、速いボールは打てるけれどショットの精度は安定性はあまり高くない、バックハンドストロークはゆっくりのボールでつなぐ程度のショットは打てる、といった形で、それぞれのショットについて整理すると自分のテニスが明確になり、シングルスの組み立てがしやすくなります。
また、動きやポジション位置についても同様に考えられます。動きが速かったり、ポジションを適切な位置に取ることができればそれが強みになり、守備範囲が広くとれるので、相手からするとなかなか決められない、ということになり、粘り強く戦うような組み立てを考えることができます。
ショットの確率や精度
例えば、相手を少し追い込むと、その状況からポイントを決めてしまいたくなり、あまり自信がないけれど、少し厳しい場所を狙ってしまってミスをすることはありませんでしょうか?
このようなとき、自分のショットの確率や精度を理解しておくことで、シングルスのラリー中の様々なシーンで適切な判断を行い、もったいないミスを減らすことができます。
整理をする時のおすすめは、10球連続で入れられるスペースの大きさはどのくらいの大きさか、を考えてみましょう。
ここでおさえておきたいのは、「連続で入れられるスペース」であることが大切です。
テニスは、素晴らしいスーパーショットを決めても1点、相手のミスでポイントを取っても1点です。
逆に言えば、ミスをたくさんしてしまうと、どんなに素晴らしいショットを一本打っても負けてしまいます。
ですので、安定して、連続でショットを入れ続ける必要があります。
その考え方でシングルスを組み立てるために、自分が打つショットは、どのくらいの範囲であれば10球連続で入れられるのか、整理してみましょう。
例えば、フォアハンドストロークは、コート1/4であれば10球連続で入る、バックハンドストロークはコート1/2であれば10球連続で入る、といったかたちで整理するのがよいでしょう。このときに大切なのは、ただ単に入るだけでは意味がありません。試合で使えるボールである必要がありますし、相手に簡単に優位を奪われないようなボールでないと、組み立てになりません。
このように整理しておくことで、自分のできることできないことが明確になるので、どの場面でどういう判断をするべきかがクリアになっていきます。
リスクとチャンス
ここまでで、テニスでポイントを取るための原則としての「時間と場所」、そして自分や相手を理解し整理するための「強みと弱み」「ショットの確率や精度」を整理してきました。
今度は、それらを実際のシングルスの中で組みててていきます。そのために必要になってくるのが、「リスク」の考え方です。
ショットを選ぶときは、必ず
・自分がミスをするリスクと自分が不利な状況になるリスク(=自分野時間と場所が奪われやすくなるリスク)
と
・相手をミスをしやすい状況に追い込む期待(=相手の時間と場所を奪うチャンス)
とのバランスで決める必要があります。
自分がショットを打つときは、必ずこの2つの要素が伴ってきます。
速いボールを打てば、相手から時間と場所を奪う可能性もありますが、自分の時間と場所を奪われる可能性も出てきます。
(自分が戻る時間が短くなるので、逆に自分が追い込まれる可能性もでてきます)
また、厳しいコースを狙えば、相手から場所を奪い、ポイントを取ったりミスを誘ったりする可能性もあがりますが、自分がミスをする可能性も高くなります。
これらのバランスの中で、判断をして、ショットを判断していく必要があります。
ルールが決まってくる
ここまで、整理ができてきたら、これまで考えてきた要素を組み合わせてシングルスの組み立てをしてみましょう。
組み立てをしていくときは、これまでの要素を踏まえて、まず自分が持ち込みたいシチュエーションを軸にすると良いと思います。
たとえば、フォアハンドのクロスラリーの展開にしたい、ネットプレーに持ち込みたい、といったかたちで、大まかな方針を立ててみます。
そのうえで、その展開に持ち込むためにどうしたらよいか、どういう状況でその展開に入っていくようにしたいのか、その展開からどのようにポイントを取っていくのか、を整理してみましょう。
それらを書き出したうえで、自分のショットの精度や確率・リスクとリターンを踏まえて考えると、「こうなったらこうする」「こうされたらこうする」といったかたちで、状況に応じた答えが自ずと出てくると思います。
それぞれの状況に応じた答えが出てきたら、それをルールとして組み立てていきましょう。
このルールが決まってきたら、あとは試合でそれを実行しましょう。この時のポイントは、決めたルールをきちんとそのまま実行し、気持ちやその時のメンタルに応じてルールを変えないことです。
「どうしてもここで決めたい」と思ったり、焦りや不安が伴うと、このルールを変更してしまいがちですが、そのときには、これまで整理してきた要素を抜け落ちて考えてしまっていたり、希望を込めた決断をしてしまっている可能性が高いため、ミスや失点につながります。
一度決めたルールは守って試合を戦い、ルールを変更するときは落ち着いてこれまで整理してきた要素をきちんと踏まえてルールを作り、組み立てるようにしてみましょう。
終わりに
シングルスの組み立ては、何から手を付けたらよいか、わからない方もいらっしゃるかもしれません。ですが、テニスでポイントを取るための原則としての「時間と場所」、そして、自分と相手を整理するための「強みと弱み」「ショットの確率と精度」を整理したうえで、「リスクとリターン」の考え方に沿って、組み立てを考えてみましょう。
しっかりと組み立てを考えて、準備をすることで、あなたの実力をしっかりと発揮することができます。