試合で緊張しないために「結果への執着」を手放す

試合になると、「失敗したくない」「もしもミスしたらどうしよう」と考えてプレーが縮こまってしまうことがあると思います。これは、誰にでも起こる自然な反応です。

こうしたとき、「緊張に負けないメンタル」を目指すのではなく、「緊張が起きてもいまに戻れる」ような取り組みが大切になってきますが、ただ頭でそうしようと思ってもなかなかできるものではありません。緊張が起きているときにどのようなことが起きているのか、そしてどのような「今への戻り方」をすることで、本質的なプレーの変化が生まれるのか、考えてみたいと思います。

結果への執着の構造──記憶がつくる“幻想の現在”

私たちは、試合の結果を「失敗するのではないか」「成功したらいいな」と想像するわけですが、実際にはそうした想像は、過去の“記憶”の中の経験を元に生み出されています。良い時のプレーを思い出して「今日もできるはず」と期待し、失敗を思い出しては「また同じようなミスをするのでは」と不安になります。つまり、期待も悲観も「過去の記憶」を根拠にした未来の予測なのです。

私たちは過去の練習や試合の中から「うまくいかなかった」瞬間を探しては悲観し、「うまくいった」瞬間を探しては期待を抱いています。しかし、どちらも、今の自分の力を正しく見ずに、自分に都合の良い記憶を利用しているのではないでしょうか。事実としての今の自分にはどのくらいうまくいくのか、どのくらいうまくいかないのか、を冷徹に見つめ直す作業が抜け落ちており、過去の一部を切り取った幻想に、現在と未来の判断が左右されてしまっているのです。

たしかに、ポジティブに考えたり、「うまくいった」体験を頼りにすることで、良いプレーのきっかけになることはあるかもしれませんが、一方でいつも以上に良いプレーだけが生み出されるか、というと、そう都合よくいくものではないのが現実です。

どこかで楽観や期待を抱えたまま今に戻ろうとしても、自分の現実をきちんと見据えることができていないので、期待したような結果が出ずに現実とのギャップに直面したときに、また落胆してしまうことになります。だからこそ、現実を正しく見ることが必要になってきます。

試合は始まる時点で、ほぼ決まっている?──実力というプログラムの視点

身も蓋もない話ですが、試合は、何が起こるかわからない、と思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、試合は始まる時にはほとんどその結果は決まっています。トーナメントや組み合わせにおいて、過去に強かった選手はほぼ順当に勝ち抜いていきます。あなたも、心のどこかで「だいたいここくらいまでしかいけないだろうな」と思うことはありませんか?

ロボットが試合をすることを例にして考えてみましょう。あるロボットは、速くて正確に動ける一方で、もう一つのロボットは動きが遅くエラーも発生します。この二つのロボットが対決すれば、前者が勝つのは当然でしょう。人間も同じで、動きや判断といった身体の中にある「運動プログラム」によってプレーが決まり、試合の当日になって急にそのプログラムが劇的に変化することはありません。つまり、過去から試合当日までにどのようなプログラムを作ってきたかによって、試合の結果はほとんど決まっていると言えるのです。

もちろん、試合当日のメンタルや戦術戦略という要素もあります。ただ、ほとんどの部分はこの「プログラム」で決まり、このプログラムの土台が広がってこそメンタルや戦術の幅が広がるものではないでしょうか。

このように考えると、試合の日までにどのようなプログラムを自分の中で培ってきたか、ということによって、ある程度試合の結果は始まる前に決まっている、と捉えることもできます。


運動プログラムについて詳しくはこちらも参考にしてください
👉️動きは脳で育つ:神経系の変化が導く“上達の原理”


結果を手放す──「諦める」は、投げ出すことではない

「諦めたらそこで試合終了」と言われるように、私たちは“諦める”をネガティブな言葉として使ってきました。けれども本来の意味は違います。諦めるの語源は、“明らかにする”ことに由来します。つまり、「諦める」とは、単に目標を放棄することではなく、自分の置かれた現実をありのままに見つめ直し、幻想ではなく事実に基づいた選択をすることだと言えます。つまり、自分にとって何ができて、何ができないのかを明らかにすることによって、無理に手を伸ばすのではなく、いまの自分にできることに集中し、そこで最も良い結果を出そうとする姿勢だと言うことができます。

このように考えると、培ってきたプログラムがどのようなものか、自分はどのくらいの精度や強さで力を発揮し、どのくらいの速さで相手に対応できるのか、どの状況だとミスが生まれ、どの状況ならば成功するのか、そのようにして自分の力を冷徹に見極めることを通して、自分の力を正しく見積もり、その正しい見積もりを元に判断ができれば、誤った判断が生まれないので、今の自分の力を発揮することができていきます。

たとえば、試合においては、何よりもミスをしないことが大切になってきますが、自分の力を見誤ってしまうと、本来はもっと安全な方法を取るべきところでリスクを取ってしまい、その結果ミスが増えてしまいます。しかし、自分の力を正しく見積もることができれば、無理に背伸びすることなく、いまの自分にとって最も適した選択ができるようになります。それは、自分のプレーを安定させ、確実にポイントを重ねることに直結します。

こうした捉え方は、ある意味では、期待を抱いた結果を諦めることを意味します。自分が期待を込めて描いている最高のプレーを諦め、その結果手に入ると期待している結果を手放すことです。けれどもこれは、決して無気力に結果を放棄することではありません。むしろ、自分の「できること」「できないこと」を明らかにし、その上で今ある力でどのように戦うかという、より現実的で実践的な構えに移行することを意味します。結果に対して抱いている淡い幻想を諦めるからこそ、現実と正面から向き合う覚悟が生まれ、いまこの瞬間のプレーに集中する土台ができるのです。

集中を戻す──「いま」を感じる力を取り戻す

淡い期待を抱いて結果を思い描く時、あなたの意識は戦うべき今ではなく未来に置かれています。しかしあなたがコントロールできるのは、戦っている今この瞬間であるはずです。決して「未来に希望を持つことをやめる」ことではありませんが、自分が未来をコントロールしようとする力みを手放すことで、自分が本当に関与できる“現在”という場所にエネルギーを注げるようになるのです。期待を完全に捨てる必要はありませんが、その期待を握りしめて未来を変えようとすればするほど、今という時間は抜け落ちてしまいます。未来を見つめたまま現在を見失うのではなく、今の行動によってしか未来はつくられないのだと、腑に落とすことが大切です。

このように腑に落として「結果を諦める」ことで、自然と“今”という唯一コントロール可能な領域に集中できるようになります。期待を握りしめたまま「今に集中しよう」としても、心の一部は常に未来に引っ張られており、緊張や不安に支配された状態になります。そうではなく、いったん結果への執着を手放し、淡い期待も含めて「今この瞬間しか自分には扱えない」と受け入れることで、心は自然と現在に帰ってくるのです。これは「意識を無理に今に置く」のではなく、「結果を手放した結果として、今しか残らない」状態です。だからこそ、より純度の高い集中状態が生まれ、パフォーマンスも引き出されていくのです。

まとめ

試合での「緊張に負けない」状態を作るためには、表面的にメンタルを強化するのではなく、結果への執着という根本から向き合うことが大切です。結果を手放すことで、期待や不安という幻想に振り回されることなく、「いま」に純粋に集中することができるようになります。そしてその集中は、自分の力を最大限に発揮する土台となります。現実を冷静に見つめ、自分にできることを明らかにし、今この瞬間を丁寧に積み重ねる。その姿勢こそが、結果へと至る最も現実的で確かな道なのです。


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