本番で力が出せないのはメンタルの弱さじゃない

「練習ではできていたのに、試合になるとうまくいかない」
「普段の自分なら絶対できるのに、本番になると崩れてしまう」

こんな経験をしたとき、多くの人は「自分はメンタルが弱いのかもしれない」と考えます。でもその前に、少し立ち止まって考えてみましょう。

本当に“普段は完璧にできていた”のでしょうか?そして、本番での失敗は“心の弱さ”だけで説明できるのでしょうか?


よくある誤解:「練習ではできている」

私たちは、練習や日常で「できていた」場面を思い出し、それを基準に「試合でも同じようにできるはずだ」と考えます。

ところが実際には、練習中でも「できていない」場面が混ざってはいませんでしょうか。

  • テニス:練習では安定して入っていると思っているサーブも、よく見ると連続で入れることはできなかったり、特定の場面で確率が下がっていたりする。
  • バスケットボール:練習のフリースローは高確率で決まるように見えても、連続で決める練習設定をすると成功率が落ちている。練習中の最後の1本だけ集中するような設定で外してしまう場面がある。
  • 野球:打撃練習では打てていると思っているけれど、実は配球の読みがなく、打ちやすい球だけを打っていて、変化球やコースの厳しい球には対応できていない。

振り返ってみた時に、このように「実はできていない」練習の場面があるのにもかかわらず、「今日は調子が悪い」「たまたま入らなかった」と片付けたまま試合にのぞむことになると、「練習ではできていたのに試合ではできない」ということになってしまいます。

さらに言えば、「本当はできていない」とどこかで気づいているのに、それを見て見ぬふりをしてそのままにしてしまっていることも少なくありません。その状態で試合に臨めば、不安が大きくなるのは当然です。

体と頭は“できていない”ことを知っている

また、「できるはずだ」と思っても、いざ試合の場面になると、できるかどうか不安になる人もいるでしょう。

練習において、「できなかった」体験をしたとき、頭と体の中に「できていなかった」体験が刷り込まれていきます。意識の上では、「できるはずだ」と思っていても、頭と体の奥の方に「できなかった」体験が記憶されているので、頭と体は「もしかしたらできないかもしれない」と感じて不安になってしまうのです。こうした「実はできていないかもしれない」感覚が、試合でプレッシャーがかかった状況になればなるほど強く浮かび上がってきます。

このように、練習中にした失敗体験が頭と体に記憶される、ということは、実は練習中から失敗をせずに絶対に成功させる、という体験をしておかなければ、試合で自信を持った振る舞いをできない、ということになります。

整理されていないからブレる

練習では、自分のできないことをできるようにして、試合ではできることを使ってどう戦うか、を考える、というのが戦い方の基本です。できないことを使って試合を戦っては、自滅することになってしまいます。

このときに、「できること」と「できないこと」があいまいになっていると、「できる」はずのことが「できないかもしれない」と思ってしまったり、「できない」ことを「できるはずだ」と思いながらプレーすることになり、結果として自分の力を発揮することができなくなってしまいます。

つまり、試合でうまく自分の力が発揮できないと考える時、まず考えるべきなのは、「メンタルの弱さ」ではなく、自分は何ができていて、何ができていないのかを整理する、ということにあるのではないでしょうか。

試合中のプレーの乱れは「技術的なブレ」

たしかに、試合で緊張すると、普段より体が硬くなったり、判断が遅れたりして、いつもどおりの動きができないことも多くあります。ここまで考えてきたことを踏まえると、試合中のプレーの乱れは、普段の練習で発生している「できたりできなかったり」の振り幅が試合中に大きくなったり、あるいは「できない」のケースが多く出てしまっている、と考えることができます。一方で、普段確実にできることは試合でもできますし、普段確実にできないことは試合でもやはりできない、ということもできます。

たとえば、「錨(アンカー)」をイメージしていただくと良いかもしれません。船を港に停泊させるとき、錨をおろすことで船の動きは一定の範囲にとどまります。練習で培った「できること」「できないこと」の基準の位置に錨が下ろされ、そこを基準にして揺れ動くようなかたちになり結果に表れます。そして、自分に何ができていて何ができていないのかが不明確だと揺れ幅が大きくなり、それが明らかになっていると揺れ幅が小さくなります。

捉え直す視点:「できること/できないこと」で錨を下ろす

自分に何ができて、何ができていないのか。これを理解せずに試合に臨むと、不安は増幅しやすくなります。頭の中では「できるはず」と思っていても、実際には感覚があいまいだったり、条件が限られていたりすることもあります。その結果、「これもできないかもしれない」「あれも不安だ」といった思考に引っ張られ、本来できることまで見失ってしまいがちです。

逆に、自分にできていることが何で、できていないことが何かをきちんと把握しておくと、不安は小さくなります。自分の状態を整理しておけば、「これはできる」「これはできない」という線引きがはっきりし、冷静に対処しやすくなります。まさに、錨を下ろした船が波に揺れながらも、一定の範囲で踏みとどまるように、自分の技術的基準が明確であれば、プレッシャーの中でも大きくは崩れず、自分ができることを使ってどう戦うかに集中することができます。

できていないことを認めるのは時に苦しい作業ですが、そこから目を逸らさずに取り組むことで、試合でも練習通りの力が発揮できるようになるのです。自分の技術的基準が明確であれば、プレッシャーの中でも大きくは崩れずにいられるのです。


できないことをできるようにしていくための練習の秘密についてはこちら
👉️成長する選手の練習の秘密

まとめ

試合中に実力が発揮できないことを「メンタルの弱さ」として片付けてしまうと、どう改善していけばよいのかが不明確ですし、強くなった、というのもわかりにくくなってしまいます。

それよりも、

  • できること・できないことをはっきりさせること
  • できないことをできるようにすること

を通して、自分の状態を整理していけば、やるべきことは明確になります。

できたりできなかったりすることを確実にできるようにしながら、できないことを明らかにしていくことで、練習でできるはずなのに試合でできない、ということは起きなくなります。

できていないことを受け止めるのは苦しいものです。できていると信じたい気持ちもあるかもしれません。でも、できていないことを受け止めてこそ、本当の意味で「できる」ようになっていくのではないでしょうか。

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