テニスの打点を安定させる方法

テニスで安定した打点に入ったり、距離感を正しく取るためには、どうしたらよいのでしょうか。今回は、わたしたちがどのようにして打点に入っているのかを、研究結果から明らかにして、良い打点に早く入るためにできることを考えていきたいと思います。

ストロークの安定の鍵は足だと思っていました

ストロークの安定の鍵が足にあると思っている方も多いでしょう。多くのコーチや上手な方から、『足が大事』『足を動かせ』『テニスはアシニスだ』などとアドバイスをもらってきたので、それが当然のことだと思っている方も多いと思います。

しかし、練習中に『足を動かそう』と思って取り組んでも、なかなか変化が生まれず、さらに「足が足りない」「努力が足りないからだ」と思って、取り組んでいませんでしょうか。

移動する場所がわかっていないと、動かせない

ここで、少し「打点への移動」ついて、学術的な点から、考えてみましょう。

タイミングの科学: 脳は動作をどうコントロールするか』から、私達がどのように身体や脳を動かしているのか、整理してみましょう。

野球のバッティングを思い浮かべてみよう。近づいてくるボールを前に打ち返すバッティングには、2つのタイプのタイミングが含まれている。一つは打者が投げられたボールの球種と球筋を予測し、ボールの到着に一致させてバットを振る動作にみられる。そとからの感覚刺激に合わせてからだをコントロールするタイミングだ。

ここでは、野球の例があげられていますが、テニスに置き換えると「移動」や「振り出し」と考えることができます。ボールの球種と球筋の予測を、まず行うことの大切さが指摘されています。

たしかに考えてみると、自分の動くスピードとボールのスピードは、ボールのほうが速いので、そう考えると、どんなに足をがんばって動かしても、ボールがすでにこちらに来たときには、もう間に合わないわけです。

ということは、ボールが来る前に、ボールが来る場所に移動して待っていることができなければ、ストロークで安定した打点で安定したショットを打つことはできない、ということになります。例えば、プロの練習風景の動画などを見ていると、もうボールがバウンドするときには、ボールが来る場所で待ち構えている様子を見たことがあると思います。

こう考えると、足を動かすためには、ボールが来る場所を先に理解している必要があり、その場所がわからなければ、どこに移動したら良いか、どう足を動かしたら良いかが、わからないので、がんばりようがなくなってしまいます。

どのようにボールが来る場所を予測するか?

では、私達はどのようにボールの予測をしているのでしょうか。

一方、野球で外野にあがったフライを捕球するためには、打球の飛ぶ方向と速度を見積もらなければならず、高速かつ高度な情報処理を要する。しかし、小学生でもフライの捕球は可能であり、このような予測動作の発達は興味深い。5〜12歳の子どもに関するこんな実験がある。子どもたちは機械で発射されたボールの最初の軌跡だけを見せられ、そのボールが飛ぶ方向と速度を予測し、捕球するために落下地点までの最短距離を移動しなければならない。

このように、ボールの飛んでくる場所を予測するには、ボールの飛び始めを見て、飛ぶ方向と速度から落下地点を予測し、移動を行っていることになります。

このように言われると、何か難しく考えてしまいますが、実は私達の身体が無意識に行っていることでもあります。

「打点にうまく入れない」という悩みをもしお持ちであるならば、すでにある程度ラケットにはボールが当たる、打つことができる方が大半でしょう。ラケットにボールを当てられるならば、ある程度ボールの落下点を予測し、そこに移動する、ということを無意識にうちにできるようになっています。

思い出してみれば、テニスを始めたばかりの頃は、ラケットにボールがうまく当たらない、という体験をした方もいらっしゃるでしょう。そこから無意識のうちに、ボールが大体どのあたりに来るかをつかめるようになってきているのです。

打点や飛んでくる場所くらいわかっている?

こう言われると、『ボールの飛んでくる場所くらいわかっているよ』という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここで確認したいのは、『どれくらいの正確さで予測できているか』というポイントになります。

ある程度球技経験のある方などは、これまでの経験から、ボールのバウンドの予測が無意識でできている方もいらっしゃるでしょう。しかし、スポーツは、少しのずれでも、ボールの打球方向が大きくずれてしまうものです。

『だいたい』わかっていても、それがいざボールが来たときに、数センチ予測と外れたら、打点がずれ、ボールはミスしてしまいます。

そのため、もしもボールの予測はできているけれど安定していない、と感じる方は、その正確さを確認して見るようにしてください。

ボール発射の軌跡からその落下地点を知るプロセスには、〜〜 網膜上のボールの大きさの変化率に関する情報とそれを担う視覚系の背側経路による情報処理が深く関わっている。

まず、私達は、相手が打ったボールを見て、その速さや高さといった要素を見ています。そして、それらの要素と、過去に経験した記憶を頼りに、「このくらいの高さや速さだと、こう飛んできて、こうバウンドする」と想像し、予測を立てていると考えられます。

意識的に行っていないかもしれませんが、テニスでラケットにボールが当てられるようになっている方であれば、無意識のうちに、ボールを見て、軌道を予測して、そこに移動しているわけです。

ですが、まずこの予測が「だいたいこのくらいスピード」と見ていると、情報が正確ではないので、予測をうまく立てることができなくなってしまいます。

また、同時にスピードをあいまいに捉えていると、予測をするための記憶もあいまいな記憶が蓄積されてしまうので、打点の予測があいまいになってしまい、ずれてしまうわけです。

大切なのは『見抜く力』

このように考えると、まず大切になってくるのは『足』よりも『目』であり、ボールを正確に見抜き、軌道を予測することにあります。

そして、特に多くの方が、見れていないのが、向かって飛んでくるボールの『スピード』を見抜く力です。

このスピードを正確に見抜くことによって、その情報を元にバウンドの予測をたてていくことができますが、このスピードが見抜けなければ、正確に予測することはできません。

つまり、ストロークの安定を培うために大切なのは、足よりも『見抜く力』の場合が往々にしてあるのです。

ボールの勢いを見抜き、目でボールを追わず、軌道を予測するくせをつけるように、練習に取り組むようにしましょう。

よくある例:正しく見抜こうとしすぎてしまう

そして、この『ボールを見抜く』ということについて、よくありがちなパターンについてお伝えします。

一つのケースは、よくボールを見ようとしてしまい、見ることに意識がいってしまい、動き出しが遅れることによって、打点に入ることが遅れてしまったり、あるいは軌道予測が遅れてしまうケースです。

このような方々は、実はボールを見抜けているケースがあります。ですが、これまで予測がうまくいかなかった経験があるため、『正しく見抜こう』としすぎてしまうことによって、動きが遅れてしまったりするのです。

この場合は、ご自身が感じたボールの勢いを信じること、そして、間違ってもかまわないので、大まかな方向に動き出しながら、ボールを見るように注意してみましょう。

よくある例:自分が打ったボールを見てしまい、見抜く準備ができていない

また、ラリーをしていると、自分が打ったボールが気になり、それを気にするあまり、相手が打つときに準備ができていないので、ボールを見抜く意識になっておらず、ただ単にボールを見てしまっているケースがあります。

これまでなかなかラリーができなかった方がラリーがつながるようになってくると、これまであまりボールが入らなかったので、「入るかな?」と気にしてしまったりすると思います。ですが、きちんと上達しているので、ラリーが着実につながるようになっていて、ですので次の課題である打点への正確な移動が課題になっているわけです。

今の自分のテーマをしっかり認識して、取り組んでみましょう。

よかったらこちらも参考にしてみてください。

自分の見方を観察する

なかなかうまくボールの勢いが見抜けない、という方は、まず自分がどのようにボールを見ているか、いつから見始めているか、観察してみましょう。

そして、たとえば、相手のボールが、
・相手コートのサービスラインを越える時
・ネットを越える時
・自分のコートのサービスラインを越える時
・バウンドする時
と整理した場合に、いつごろ相手のボールの勢いに気づけているかを少し振り返ってみましょう。

自分が今、どのようにボールを見ているか、気付けるようになると、打ちながら、自分の見方をコントロールできるようになっていきます。

まとめ

ボールとの距離感をつかむために必要な『ボールの見方』について解説させていただきました。

このポイントは、ラリーがなかなか続かない方の多くに共通する課題点になります。最初はなかなかうまく軌道予測ができない方もいらっしゃると思いますが、意識して練習をしていると、少しずつボールを見る力が身につき、軌道予測ができるようになっていきます。

根気強く練習して、楽に打点に入れるように練習しましょう!

ストロークを安定させるために、他の要素についても知りたい方は、こちらを参考にして下さい。

参考文献:

タイミングの科学: 脳は動作をどうコントロールするか 乾 信之 (著)

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