伝わらないのは、伝え方の問題ではない——動きが変わらない指導の構造を解く

この記事について: 指導者の視点から「伝わらない」の構造を掘り下げます。動きが変わらない競技者側の原因についてはフォームを直しても上達しない理由上達の地図を参照してください。

「何度言っても動きがなかなか変わらない」
指導に長く関わる人なら、一度は感じたことがあるのではないでしょうか。正しいことを伝えている、説明もできている、どこが課題かも指している。でも、動きが変わらない。

このような経験をするとき、「自分の伝え方が悪いのか」「相手が聞く気がないのではないか」と考えてしまう人は少なくありません。しかし、そのどちらでもない可能性が高いのです。変わらないのは、「伝えること」に内在するある構造的な理由があるからかもしれません。


なぜ言葉は届かないのか——形へのアドバイスが効かない理由

指導の現場で、動きを伝えようとするとき、形やフォームに関して伝えるケースが多いでしょう。しかし、ここで注意したいのは、形は動きを生み出す「原因」ではなく「結果」である、ということです。つまり形だけを変えようとしても、動きを生み出している原因にアプローチができなければ、元の動きに戻ってしまいます(詳しくはフォームを直しても上達しない理由を参照してください)。

では、動きを生み出している原因とは何か。それが意図です。

動きは、その人の「思考のプログラム」の表現でもあります。「力を発揮してやろう」という意図のもとでは、体は「自分の筋肉を最大限使う」という指令を出します。その力の方向は道具や相手に伝えることではなく「自分の力を示す」ことに向かうことになり、動きに力みが生まれます。

動きが変わらない本当の理由は、これまでの動きを保とうとする意図がまだそこにあるからです。言葉で理解し、動きを変化させようとしても、動きの意図が変わっていなければ、身体はこれまでの動きを継続します。これは神経系の観点から言えば、古い運動プログラムが書き換わっていない状態でもあります。

つまり言葉が届かないのは、言葉が動きの結果である形に向かい、形の奥にある意図に届いていないからかもしれません。


意図——その種類と構造

動きを生み出している意図に届くような対話をするために、相手の中に存在する、相手自身もはっきりとはわかっていないかもしれない意図を明らかにする必要があります。指導の現場でよく見られる意図には、大きく3つのグループがあります。そしてそれぞれの意図には、対応するアプローチが異なります。


① 自分を守ろうとする意図——失敗への恐れ、安全への執着

「ミスをしたらどうしよう」「また同じ失敗をしてしまうかもしれない」——真剣に競技に取り組んでいる人ほど、こうした不安を抱えています。

たとえば、大きく打ち方を変えたり、新しいやり方に挑戦する時、どうしても簡単に結果が出るものではありません。動きは、様々な要素の積み重ねで成り立ち、それらが統合された時に成功します。しかしすぐに結果を出そうとしたり、失敗を避けようとすると、まだ動きが定着していない土台の状態で意図を込めてしまうことで、動きが邪魔をされてしまい古い運動プログラムに戻ってしまいます。意志の弱さではなく、「失敗したくない」という意図が、リスクのある新しい動きを無意識にブロックし、新しい動きへの挑戦そのものを無意識に回避させます。

このグループへのアプローチ:安心して失敗できる環境づくり

失敗への恐れが強いとき、言葉で「大丈夫」と伝えても意図は動きません。必要なのは、本人が「失敗してもいい」と思える環境をつくることです。

動きを細かく分解する。スローモーションで動くことで、無意識に使っていた力みの存在に初めて気づかせる。道具を変える、練習メニューのゴール設定を工夫する、自由に動いてもらう——練習自体のテーマや目標を、短期的な結果ではなく、今取り組んでいる動きや意図に集中できるような環境設定が大切となります。

そのうえで、選手の「成功」=「価値」という価値観に働きかけ、「挑戦」=「価値」という価値観の視点を伝え、失敗が「ダメなこと」ではなく「発見のきっかけ」になる空間を指導者がつくれるかどうか——それが、失敗を恐れる意図を少しずつ緩めていく土台になります。また、いきなり試合に近い状況で新しい動きを試させるのではなく、失敗しても何も失わない低リスクな場面から始めることで、プレイヤーは安心して一歩を踏み出せるようになります。


② 結果を早く求める意図——今できていないことへの焦り

「早く強くなりたい」「今すぐ結果を出さなければ」——成長を望む気持ち自体は正当です。しかしこの「早く」「今すぐ」という焦りが強くなるほど、意識は今この瞬間の動きではなく、まだ来ていない結果に向かいます。体は「今できていない自分」を何とかしようと力み、道具や相手に力を「伝える」のではなく、自分が「発揮する」ことへの執着が生まれます。

たとえば、強いボールを打とうとして腕に力を込めるほど、かえってスイングが鈍くなる、という経験がある人は多いと思います。「力を抜いたほうが飛ぶ」と頭ではわかっていても、試合になると力んでしまう。それは「今すぐ結果を出さなければ」という焦りの意図が、体に余計な指令を出し続けているからです。できていないことへの焦りが、今この瞬間になすべき動きから意識を遠ざけています。

このグループへのアプローチ:道筋を示して、今やるべきことに意識を向ける

結果を求める意図が強いとき、技術的なアドバイスだけでは届きません。プレイヤーが「今すぐ結果を出さなければ」という焦りを抱えている限り、意識は「結果がどうなるか」に向かい続け、今この瞬間の動きから離れていきます。体は力みながら、まだ来ていない未来に反応しているのです。

「今の段階ではこれが課題で、これができるようになると次にこう変わる」という道筋を示すことで、「今はこの段階でいい」「今意識を向けるべきことはこれだ」と腹をくくれます。焦りが手放せたとき、意識は今この瞬間になすべきことに戻すことができます。「結果を出すために今やるべきこと」に集中できるようになってはじめて、動きを変えることができるのです。


③ 自己イメージを守ろうとする意図——「できるはずの自分」「自分のやり方は正しいはず」への執着

「自分はこういう動きをしている」「自分はこのくらいできる」「長年やってきた自分のやり方は合っているはず」——人は自分の動きや判断について、何らかのイメージと確信を持っています。問題は、そのイメージが実際の動きとズレていることに気づいていない場合です。

たとえば、「力は抜けている」と本人は思っているのに、実際には強い力みがある。「フォームは直した」と思っているのに、動画で見ると以前と変わっていない。長年積み重ねてきた自分のやり方を「正しいもの」と信じているとき、新しいアドバイスは違和感や「間違い」として感じられます。こうした状態では、アドバイスを受け取っても「でも自分はそうじゃない」という反応が起きます。自己イメージが現実を上書きしてしまうからです。

このグループへのアプローチ:問い・言葉・動きで意図を動かす

「なぜそのように動いていると思うのか」「今の動きのどこに力が入っていると感じるか」——指導者が正しい答えを教えるのではなく、問いを立てることで、相手が自分の動きを観察するきっかけをつくります。自己イメージと現実のズレに自分で気づくことが、変化の入口になります。

さらに、言葉によって捉え方をずらすことが有効です。たとえば、「自分がラケットを使う」という捉え方は、自分が主体でラケットはあくまで操作する対象と捉えていますが、「ラケットに動いてもらう」と表現すると、ラケットが主体で自分はそれをサポートする立場へと転換します。こうした言葉の表現によって、捉え方の違いを表すこともできます。相手が今どんな意図の構造の上に立っているかを読み、その意図の輪郭に触れる言葉を選んでみましょう。

自己イメージが強固なとき、問いや言葉だけでは揺らがないことがあります。そのような場合、動きから強制的に新しい体験をインプットするアプローチも取り組んでみましょう。制約をつける、道具を変える、感覚を共有する、いつもと全く異なる条件で動いてもらう——自己イメージを「正しい」と信じている人も、これまでと違う感覚が体に入ると、「自分がやっていたことと、これは違う」という気づきが生まれます。言葉で理解させようとするより先に、体が違いを知ることで、自己イメージが崩れるきっかけになります。


意図がわからないとき——動きと言葉を切り口に働きかける

実際の指導現場では、動きは目に見えやすい一方で、相手の意図は目に見えるものではありません。そのようなとき、動きと言葉を切り口にした対話を通して働きかけてみましょう。

動きの奥に潜む意図は、時に選手自身も気づいていない、言語化できていない時があるものです。言語化できていない意図は、それまでの体験の中で「表してはいけない」とおさえつけているものであったり、「存在してはいけない」と位置づけていた可能性があるからこそ、言語化できていないものになっています。そのような時、相手と対等な立場で、どのような感情・気持ちも否定されないという前提に立ったうえでの対話こそが、意図を明らかにしていきます。

そして、意図の手がかりを掴むために、相手の動きを真似て、相手の感覚や感情を探ることも一つの方法です。「あなたはこういう感覚でいるのかもしれない」という仮説を、指導者が身体ごと持つことで、相手が感じている感情をも体感することができます。

そのような身体的な共鳴は、相手の意図の種類を見極める手がかりにもなり、真似から出てきた言葉は「自分のことをわかってもらえている」という感覚へとつながると同時に、ミラーリング効果として、相手が抱く親近感や親和性が意図を動かす下地にもなります。

こうした過程は、動きの真似や対話単体で成し遂げられるものではなく、こうしたやり取りを通じて、相手が「どう受け取ったか」を確かめながら、「どこがしっくりきて、どこがまだあいまいか」「どんな感覚が生まれているか」その道のりを共に歩み、動きと対話を往復しながら、相手の意図の輪郭を明らかにしていくことで、成し遂げられていくものです。


対話のスタンスが、伝わることを可能にする

指導に完全な正解はありませんし、それぞれの人格が異なるように、私たちは全員が自分の体の中に、自分の物語を持って生きています。だからこそ、その物語を書き換えるための方法も人それぞれ異なるものです。その前提に立ち、正しい答えを一緒に「つくっていく」ものであると捉えることで、本当の意味での対話が生まれてきます。

そのスタンスがあることで、選手は落ち着いて対話に臨むことができます。「指導者が正解を持っていて、自分はそれができていない、わかっていない」という緊張から解放され、「一緒に探っている」と感じられる関係の中で、課題を明らかにすることに焦らず取り組めるようになるのです。そして、指導者自身がその過程を楽しむ姿勢は、選手自身にも伝わります。相手の意図の構造を読み、その意図の輪郭に触れる言葉を共に探り、届く体験を通して、信頼関係は深いものとなり、その中でこそ、変化は生まれます。

指導の現場での関わり方については、成長を支えるフィードバックとは?主体性を育む指導も合わせて参照してください。また、環境づくり/指導カテゴリではこのテーマをさらに広く扱っています。

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投稿者プロフィール

幹玄
幹玄探究実践者・スポーツ指導者
幹玄(Kangen)
探究実践者・スポーツ指導者。合同会社wakka代表。
「なぜ努力しても変わらないのか」——この問いを出発点に、20年以上にわたりスポーツ現場・教育現場で「変化の構造」と向き合ってきた。バイオメカニクス・脳神経科学・仏教哲学を統合した独自の指導論をもとに、AI・対話・構造化された問いを組み合わせた成長支援を実践している。

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「なぜ努力しても変わらないのか」を問いに、20年以上スポーツ現場と教育現場で「変化の構造」と向き合ってきた幹玄が、一緒に整理します。競技者の方も、指導に悩む方も、まず話を聞かせてください。
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【幹玄(かんげん)】
探究実践者・スポーツ指導者 「なぜ努力しても変わらないのか」を問い続けて20年以上。バイオメカニクス・脳神経科学・仏教哲学を統合した指導論で、スポーツ現場と教育現場の両方に関わっている。

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