
同じ部活で、同じコーチに教わって、同じ時間だけ練習している。それなのに、なぜか伸びる選手と、伸び悩む選手がいます。
サッカーでも、野球でも、バスケでも、テニスでも、陸上や水泳のような個人競技でも——どの競技でも、この差はあります。
「あの子は才能があるから」「自分は不器用だから」——そんな言葉で説明されてきたこの差は、本当に才能の問題なのでしょうか。
20年以上、現場で多くの選手を見てきて感じるのは、才能や努力の量も影響していますが、それよりも練習の成果が出る人と出ない人の違いは、練習を「設計するように取り組んでいるかどうか」にあるということです。
この記事では、成果が出ない人に共通する3つの誤解と、成果が出る人がやっている3つの設計、そして「上達は偶然ではなく、設計の結果である」という考え方を整理していきます。
👉 スポーツ上達そのものの全体像については スポーツ上達の構造モデル でも整理しています。あわせて読むと、この記事の話がより立体的に見えてきます。
同じ練習をしているのに、なぜ差が出るのか
たとえば、同じサッカー部で、同じメニューを2時間こなしている2人の選手がいるのに、ひとりは、試合でゴールに絡む場面が増えて、もうひとりは、半年たってもプレーがほとんど変わらない。
外から見れば、2人がやっていることは同じです。同じグラウンドで、同じドリル、同じ走り込み、同じシュート練習を同じ本数こなしている。
違いは、内側で起きていることにあります。伸びている選手は、一本のシュート、一回のトラップ、一度の判断ごとに「いま何ができたか」「どこを直すべきか」を自分のなかで振り返り、意図を持って取り組んでいます。練習が終わったあとには、次の日に向けた「課題リスト」を頭のなかに作り上げています。
伸びていない選手は、メニューをこなすこと、来た状況に対応することに注意が向いています。一本一本にフィードバックがなく、練習が終わっても「今日はこれをやった」という事実だけが残ります。
この差は、技術の差ではありません。練習に対する向き合い方の構造の差です。
これは競技を限った話ではなく、サッカーでも野球でもバスケでもテニスでも、陸上や水泳のような個人競技でも、同じ構造になっています。
成果が出ない人に共通する3つの誤解
一所懸命取り組んでいるのに成果が出ない人を見ていると、共通する誤解があるようです。本人は真面目に努力しているケースがほとんどだからこそ、構造に気づかずに、場合によっては「頑張りが足りないからだ」と自分を責めてしまうケースが少なくありません。
誤解1:量をこなせば、いずれ上手くなる
「努力の量が足りないのだ。努力の量を増やせば必ず上達する」——これは半分正しく、半分間違いです。
たしかに練習量はベースになります。でも、量だけを増やしても、ある段階を超えると伸びは止まります。なぜなら、間違ったフォームや浅い意識のまま量をこなすと、その間違いが固定されてしまうからです。
「3年続けたのに変わらない」のではなく、「3年かけて、変わらない練習を固めてしまった」のです。
誤解2:うまくいったから、それが正解
「いまのシュート、入った」「いまのスイング、うまくいった」「いまのキック、思い通りに飛んだ」——練習中に小さな成功が起きると、人はその直前にやっていたことを「正解」として記憶します。
でも、うまくいった原因は一つとは限りません。複数の要素が同時に重なっていたり、表面の原因の奥に「原因の原因」があったりします。だから、自分が意識していたポイント以外の要素がたまたまかみ合っただけで、うまくいっているということも起こります。
たとえば、シュートが入ったときに「手首の使い方を意識していた」としても、実際にうまくいった原因は、別のところにあるにも関わらず手首のおかげで入ったと思ってしまうと、本当の原因は見逃されたままなので、いざという時再現ができないことになってしまいます。場合によっては、結果がうまくいったために間違ったフォームや間違った意識の置き方が強化されてしまうということも起きてしまいます。
👉 うまくいったときも、うまくいかなかったときも、原因をひとつに限定せず、原因の原因まで考える考え方については 上達する人が実践する原因と結果の考え方 で詳しく書いています。一つの原因に飛びつかず、多角的に原因を探る姿勢が、この誤解から抹け出す鍵になります。
本当に上達する選手は、うまくいったときほど慎重になります。「いま入ったのは、本当にこの意識のおかげなのか」「他に効いていた要素はなかったか」と、成功を疑う習慣を持っています。
うまくいったことに喜ぶことと、うまくいった原因を見極めることは、別の作業です。
誤解3:一所懸命取り組めば、そのうちうまくなる
「コーチが出してくれたメニューを、一所懸命取り組んでいれば、いつか課題は改善されて、うまくなる」——こうして真面目に取り組んでいる選手はたくさんいます。
態度としては立派に見えます。与えられたことを手を抜かずに真面目にやることは価値があることです。
しかし、一所懸命取り組んでいる選手でも、上達しないという厳しい現実があることも確かです。
コーチから与えられたメニューには、その目的や意図があります。しかし、往々にして、メニューの「手順」「やり方」だけが伝わり、その目的や意図、そしてそれをどのように取り組んでいくと変化が生まれるのか、そしてもし変化が生まれないとしたら何が悪くどのように工夫していくことで改善していくのか、そうした営みがされずに、ただこなされていくことになります。
もちろん、うまくなる場合もあります。メニューをこなすうちにタイミングは合うようになり、フォームも定着しますが、なぜどのようにしてそうなったのかがあいまいなまま無意識下に動きがされていくと、プレッシャーがかかった場面でうまくできるかどうかが不安になり、良い動きが再現できないようにもなってしまいます。
【👉 プレッシャーがかかった場面で起きていることについては、「心が弱いから勝てない」と思っているあなたのための「意識の向け方」アプローチも参考にしてください。】
上達する選手は、メニューを与えられたときに、意識の置き方を考え、改善されているかを確認し、工夫しながら取り組みます。同じメニューでも、そうした取り組みをするかしないかで、育つものはまったく違っていきます。
一所懸命やることと、上達することは、重なっているようで重なっていません。ここに、成果が出る人と出ない人の最大の分岐点があります。
👉 「ちゃんとやっているはずなのに、結果につながらない」という日が続いているなら、練習しても結果が出ない日は、練習の組み立て方を変える も参考にしてください。手順をこなすだけになってしまった練習を、その日その場で切り替えるための考え方を書いています。
成果が出る人がやっている「3つの設計」
では、成果が出る選手はどのように練習を「設計」しているのでしょうか。
設計1:成果の物差しをもつ
成果が出る選手は、練習に入る前に「今日、何をもって”できた”とするか」の基準を持っています。
ここで重要なのは、物差しは「質」と「結果」の両方で測るということです。
たとえば、バスケのシュート練習で考えてみます。「100本中何本入れる」といった「結果」の目標を立てて取り組みがちですが、それだけで入るようになるほど甘くはありません。そうするために、今の動きの何が課題でどのようにすればよいのか、たとえば「リリースの瞬間まで肘を真っすぐに作りながら放つ」さらには、「肘がブレる時はこういう意図を持った時、こういうことが気になったときだから、注意を肘に向け続けて取り組む」といったように、動き方や認知、意図といった、自分でコントロールできる「質」に対する注意と、それによって実際に生まれる「動き」やその動きによって生み出される結果がどうなったかということを注意しながら取り組むことがポイントになります。
この両方を並べて確認することで原因と結果の関係が見え、意識できたのに結果が伴わないなら、その意識は本当の原因ではないかもしれませんし、意識したときに結果も伴うなら、その意識は今の自分に対して適切であると判断することができます。
どのような競技であっても、「動き方」「意図」「認知」といった自分の中で起きていること、そして結果として表れる「動き」「気づき」とその結果、というように、質と結果をセットで見るようにしてみましょう。
質だけを見てしまうと、「意識できたこと」「取り組んだこと」が、本当に結果に結びついているのか、がズレてしまいますし、逆に結果だけを見てしまうと、先ほどの誤解2のように、たまたまうまくいった原因を間違えて認識してしまいます。質と結果の両方を見ることで、意識していることが改善できているのか、正しい方向で努力できているのかを確認することができるのです。
👉 なぜ”練習しても成果が出ない”のか?成果が出る練習設計の3原則 で、この物差しの作り方を3つの段階で詳しく解説しています。
設計2:練習を自分のものに再構成する
練習メニューに取り組む時、成果が出る選手はそのまま実行せずに、そのメニューが自分のプレー、自分の課題に対してどのような意味があるのか、を考えてから取り組みます。
「このメニューは何を改善すべきものか」
「どのように意識すると、どのような変化が生まれそうか。その結果自分のプレーがどう変わるか」
このように与えられたメニューにただ漫然と取り組むのではなく、自分のプレー・自分の目的に合わせて意識すべきことを再構成して考えて実行する。このように取り組むと、同じメニューでも他の選手とは取り組みの深さが違ってきます。
成果が出ない選手は、メニューに取り組んで一所懸命練習していれば上達する、改善すると考えて取り組んでしまうので、何百本打っても、本当に改善するような方向性に向かないのです。
設計3:振り返りで原因を再検討する
練習が終わったあと、成果が出る選手はその日の練習や取り組みを振り返り、「今日できたことの原因」「うまくいかなかったことの原因」を整理します。このとき重要なのは、結果ではなく原因を見ることです。
たとえば野球で、バッティングをうまくいかせるためにスイングの軌道を安定させるように取り組んでいたけれども、うまくいかなかった日があるとしましょう。課題の原因に取り組んでいたとしても、すぐにその成果に結びつくとは限りません。原因の原因があるかもしれませんし、他にも原因があるかもしれません。たとえば軌道がブレたのは、振りにいくときに重心がぶれてしまったからかもしれませんし、重心がぶれてしまったのは相手投手の球速を意識しすぎてしまったかもしれません。
このように原因を探索する意識を持つと、その日の練習でもしも課題が改善できなかったとしても、さらに原因を深堀りすることによって「本当の原因」に近づいている感覚を持ち、そして本当の原因に取り組む中で改善していくなかで「変化する自分」を感じ、プレッシャーのかかった場面でも自信を持って取り組むことができる自分へと結びついていきます。
こうして本当の原因にたどりついていくためには、原因を「分解」し、分解した原因に「焦点化」を行って、練習に取り組むなかで本当の原因にたどりついていくことができま。
振り返りをする時、「良かった」「ダメだった」という評価で終わってしまったり、「これが原因だ」と思ったものに取り組み続けることになってしまいがちです。原因を切り分け、掘り下げていくなかで、本当の原因にたどりついていくことができます。
上達は偶然ではない——成果が出る練習は「設計」されている
成果が出ない人は、練習を「やる」ことに意識を向け、成果が出る人は、練習を「設計する」ことに意識を向けます。
この違いは、技術論ではなく、練習という時間に対する姿勢の違いです。
スポーツの上達は、よく「才能」や「センス」という言葉で語られます。でも、現場で何百人もの選手を見てきて思うのは、才能の正体は「設計する力」なのではないか、ということです。
自分の練習を、自分で見て、自分で判断し、自分で組み立てる。この一連のプロセスを習慣にできた選手は、競技を超えて伸びていきます。逆に、これを習慣にできなかった選手は、どれだけ才能があっても、ある段階で止まります。
上達は、偶然ではありません。設計の結果として、必然に起こるものです。
「明日の練習で、何をもって”できた”とするか、決まっているだろうか?」
「今日の練習で、何ができたか、できなかったのはなぜか、どうしたらできるようになるか?」
こうした問いを持ち続け、課題に向き合い続けているか、振り返ってみてください。
成長を必然にする練習設計を、自分ひとりで組み立てるのが難しいと感じる方へ。
じょうたつの学校では、選手一人ひとりの状況を見ながら、練習の物差しと振り返りの仕方を一緒に整える個別指導を行っています。中高生のお子さまをお持ちの保護者の方も、伸び悩みを抱える指導者の方も、一度ご相談ください。
投稿者プロフィール

- 探究実践者・スポーツ指導者
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幹玄(Kangen)
探究実践者・スポーツ指導者。合同会社wakka代表。
「なぜ努力しても変わらないのか」——この問いを出発点に、20年以上にわたりスポーツ現場・教育現場で「変化の構造」と向き合ってきた。バイオメカニクス・脳神経科学・仏教哲学を統合した独自の指導論をもとに、AI・対話・構造化された問いを組み合わせた成長支援を実践している。
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【幹玄(かんげん)】
探究実践者・スポーツ指導者 「なぜ努力しても変わらないのか」を問い続けて20年以上。バイオメカニクス・脳神経科学・仏教哲学を統合した指導論で、スポーツ現場と教育現場の両方に関わっている。




