「勝ちたいのに怖い」——試合前の不安との正しい付き合い方


不安を「消そう」とするほど大きくなる構造

テニスの試合を控えた選手を思い浮かべてください。サーブを失敗したらどうしようという恐怖が浮かぶと、選手は無意識のうちに「その恐怖を消す」ことに意識を向け始めます。しかし、恐怖を意識すればするほど、身体は緊張し、いつもの動きが失われてしまいます。

ティモシー・ガルウェイ氏は「インナーゲーム」の考え方のなかで、自分の動きや思考を監視しようとする意識が強まると、本来持っているパフォーマンス能力が発揮されにくくなるとされています。サッカーのPK決定時も同じです。決定的なシュートを前に「外したら」という恐怖を払拭しようとする選手ほど、実際には外しやすくなる傾向が見られます。

つまり、不安は「弱さ」ではなく、意識の向け方の問題なのです。「練習ではできるのに試合でできない」と感じている方は、その背景にも同じ構造が働いているかもしれません。

不安は影のようなもの——認めた瞬間に味方になる

自分が認めたくない感情を心の奥に押し込むと、その感情はいっそう大きくなります。不安に対しても同じことが言えます。

バスケットボールのフリースロー。プロ選手でさえ、シュートを決める前に微かな緊張感を感じています。その緊張を「ない」ことにしようと力むのではなく、「ここにある」と認めた瞬間、選手の身体は驚くほど安定します。なぜなら、認めることで、感情を制御しようとする無駄な修正作業が止まるからです。

競泳の選手も同様です。スターティングブロックに立つ直前、心拍数が上がり、呼吸が浅くなります。これを「落ち着こう」と無理に抑えるのではなく、「身体が準備態勢に入っている」という信号として受け取ることで、むしろ爆発的なスタートが生まれます。

不安は「敵」ではなく、自分が何かを大切に思っている証拠です。その証拠を否定するのではなく、認める。その瞬間、不安は単なる不快感から、自分を守ろうとするエネルギーに変わります。

「今、自分にできること」だけに意識を戻す

では、試合前の不安とどう向き合えばよいのでしょうか。答えはシンプルです。「将来」ではなく「今」に注意を向けることです。

イチロー氏が実践していたとされる打席前のルーティンは広く知られています。バッターボックスに入る前の所作、肩を回す動き、バットを握る角度。こうした決まった動作に意識を向けることで、脳は「今、ここでできることに集中する」という信号を受け取ります。テニスのサーブ前にボールを何度かつき、深呼吸するという一連の動作も、実は心を「今」に固定するための仕掛けなのです。

ただし、ここで注意したいのは、ルーティンとは「なんとなく決めた動作」とするよりもさらに意味を持たせるために、自分のメンタルが乱れやすい場面において起こる技術的なブレや再現性の低さに対して「具体的な注意と意図、変化」を行動に落とし込んだものとすることをおすすめします。

たとえば、テニスでセカンドサーブに不安を感じやすい選手がいるとします。この選手にとって必要なルーティンとして、漠然と深呼吸をすることもよいですが、「トスを上げる手の位置を確認する」「打点の高さに意識を向ける」といった、自分の弱点に直結する具体的な動作への注意です。サッカーでPKを蹴る選手なら、「助走の歩幅」「軸足の踏み込み位置」「コースを決めたらゴールキーパーを見ない」など、自分が崩れやすいポイントに対する明確な行動指針をルーティンとしましょう。

バスケットボールのフリースローでも同じです。「ボールの縫い目を指先で感じる」「リングの手前のフックに視線を固定する」——こうした具体的な動作に意識を向けることで、「外したらどうしよう」という思考が入り込む余地がなくなります。

「今、ここ」に集中するとは、つまり「今、この一本で自分は何に注意を向け、どう身体を動かすか」を明確にすることです。それは思いつきの儀式ではなく、自分の弱さや課題と真剣に向き合った結果として生まれる、具体的な行動の設計図です。そうしたルーティンを持つことで、「今、ここ」という言葉は抽象的なスローガンではなく、身体が自然と動き出すための確かな手がかりになっていきます。

「負けたらどうしよう」という問いは、今この瞬間には答えようのない問いです。今できることは、呼吸をすること、身体の状態を感じること、目の前の一本の動作に意識を向けることだけです。

不安は消えません。消す必要もありません。その不安と一緒に、「今、自分にできること」だけを繰り返していく。試合前のこの向き合い方が、実は最も安定したパフォーマンスを生み出すのです。

そして、試合後に「あのときこうしていれば」という後悔に囚われてしまう方は、心の強さを築く方法:メンタルの弱さとは、闘わず、観察するもあわせて読んでみてください。

参考

  • W.T.ガルウェイ『新インナーゲーム』日刊スポーツ出版社(Amazon

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投稿者プロフィール

幹玄
幹玄探究実践者・スポーツ指導者
幹玄(Kangen)
探究実践者・スポーツ指導者。合同会社wakka代表。
「なぜ努力しても変わらないのか」——この問いを出発点に、20年以上にわたりスポーツ現場・教育現場で「変化の構造」と向き合ってきた。バイオメカニクス・脳神経科学・仏教哲学を統合した独自の指導論をもとに、AI・対話・構造化された問いを組み合わせた成長支援を実践している。

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【幹玄(かんげん)】
探究実践者・スポーツ指導者 「なぜ努力しても変わらないのか」を問い続けて20年以上。バイオメカニクス・脳神経科学・仏教哲学を統合した指導論で、スポーツ現場と教育現場の両方に関わっている。

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