
エイム練習をしても伸びないのはなぜ
「エイムを鍛えろ」「感度を合わせろ」「撃ち合いの回数を増やせ」。FPSの上達法として、よく語られる言葉です。どれも間違ってはいません。照準がぶれれば当たらないし、感度が体に合っていなければ狙いは安定しません。実際、始めたばかりの頃は、こうした操作の精度を上げるだけでも勝率ははっきり伸びていきます。
ですが、ある程度エイムが仕上がってきたのに壁を感じているなら、そのアドバイスは少し役割を終えているのかもしれません。「エイムを鍛えろ」という言葉は、上達へのヒントではあっても、あなた自身の負けの答えそのものではないかもしれません。同じ「やられた」という結果でも、その原因は人によって、場面によってまるで違います。照準そのものが甘かったのか、そもそも撃たれる位置に立っていたのか、相手がそこにいることに気づいていなかったのか。表に出た現象は同じでも、その種が生まれた場所は一つ手前、あるいはもっと手前にあることが多いように思います。
エイム練習は、いわば操作という一つの層を磨く作業です。そこだけを何時間直しても、観察や判断といった別の層には手が触れていない。だから「たくさん練習しているのに伸びない」という感覚が残るのではないでしょうか。原因のない結果はありません。伸び悩みには必ず理由があって、それはたいてい、いちばん目につく「エイム」の陰に隠れています。
FPSの負けは“撃ち合いの前”で決まっている
一度、やられた場面をリプレイで巻き戻してみてください。撃ち負けた瞬間ではなく、その三秒前、五秒前へと時間を遡っていくのです。すると、多くの負けが「撃ち合いが始まる前」にすでに決まっていたことに気づきます。
たとえば、角を曲がった瞬間に撃たれたとします。エイムが遅れたと感じるかもしれません。けれど巻き戻すと、その角の向こうから足音が聞こえていた、直前にチームメイトがその方向で倒れていた、ミニマップに敵の痕跡が残っていた——そうした「観るべきだった情報」が、画面のどこかに出ていないでしょうか。撃ち合いに入る前に相手の位置を読めていれば、そもそも不利な角度で飛び込まずに済んだかもしれません。これはエイムの精度ではなく、索敵と位置取りという観察の問題です。
FPSにおける観察は、大きく「観る・読む・選択する」という流れで捉えると整理しやすいように思います。まず、音やミニマップ、キルログといった手がかりを観る。次に、そこから相手がどこにいて何をしようとしているかを読む。そして、前に出るのか、引くのか、別の角度を取るのかを選択する。撃ち合いは、この選択の結果として起こる最後の一幕にすぎません。負けの原因を「最後の一幕」だけに求めてしまうと、その手前で積み重なっていたズレが、いつまでも見えないままになってしまうのではないでしょうか。古い兵法である孫子にも、「勝てる形を先に作ってから戦いに臨む」という考えがあります。撃ち合いという最後の一幕は、その手前で整えた形の上に、静かに乗るものなのだと思います。
練習には、ただ回数を重ねるだけのものと、上達につながるものがあります。両者を分けるのは、「何を観察し、何を直すのか」がはっきりしているかどうかです。同じ一時間でも、漠然と撃ち合いを繰り返すのと、「今日は音の情報だけに注意を向ける」と決めて動くのとでは、残るものがまるで変わってくるのだと思います。回数ではなく、注意を向ける対象の質。ここに、伸びる人と伸び悩む人の分かれ目があるのかもしれません。
もう一つ、興味深い視点があります。チェスの熟達者を調べたチェイスとサイモンの研究では、上級者は同じ盤面から、初心者よりもはるかに多くの意味ある情報を、ひとまとまりで読み取っていたことが知られています。盤面を一つひとつの駒としてではなく、「よくある配置のかたまり」として一瞬で把握していたのです。FPSでも同じことが起きています。上手なプレイヤーは、同じ画面を見ても、足音の方向、残弾、味方の位置、敵の人数といった情報を、いくつもの塊としてほとんど瞬時に読み取っている。逆に伸び悩んでいるときは、画面に情報は映っているのに、それを意味として拾えていないことが多いのだと思います。見えていないのではなく、観る対象が定まっていない。そう捉え直すと、鍛えるべき場所が少し変わって見えてこないでしょうか。
個別に潰しても伸びない――地図で現在地を見る
ここで一つ、注意しておきたいことがあります。「では観察を鍛えよう」と、今度は索敵だけを個別に練習しはじめても、なかなか思うようには伸びません。FPSの上達は、操作・知覚(観る・読む・選択する)・知識・戦術判断・メンタル・取り組み方といった、いくつもの層が重なり合ってできているからです。一つの層だけを取り出して磨いても、他の層との噛み合わせがずれていれば、成果は表に出てきにくいのです。
たとえば、索敵で相手の位置を読めても、そのマップで「この位置なら普通どう動くか」という知識がなければ、読みは確信に変わりません。逆に知識が豊富でも、撃ち合いの一瞬でそれを判断として選び取れなければ使えない。層と層はこうして影響し合い、少しずつ一つの「実力」として自分の中に馴染んでいきます。一度うまくいったからといって、それが常にできるとは限りません。できたことが、考えなくても自然に出るようになって、はじめて定着したと言えるのだと思います。
だからこそ、いきなり個別の課題を潰しにいく前に、自分が今どの層で止まっているのかを、地図の上で確かめることが役に立ちます。負けの原因を一つずつ場当たり的に直していくのではなく、全体像の中で現在地を見る。この考え方については、別の記事でくわしく整理しています。
まず一つ、撃ち合う前に観るものを決める
たくさんの層を一度に直そうとすると、かえって何も変わりません。まずは「観察」に焦点を絞ることをおすすめします。今日は足音だけに注意を向ける。次はミニマップの敵の痕跡だけを追う。対象を一つに絞るからこそ、意識はそこに定まり、繰り返すうちに自然と拾えるようになっていきます。
そして、試合のあとにリプレイでその一点だけを確かめてみてください。「決めた対象を、撃ち合いの前にちゃんと観られていたか」。当たったか外れたかではなく、観るべきものを観られていたか、を振り返るのです。これを一つずつ積み重ねていくと、撃ち合いが始まる前に読める情報が少しずつ増え、気づけば「なぜか撃ち負けにくくなった」と感じる日が来るのではないでしょうか。試合は始まる前に、そこまで積み上げてきたもので、その大半が決まっているのだと思います。
観る対象を具体的にどう選び、どう鍛えていくかについては、こちらで掘り下げています。
練習ではできるのに、本番になると同じミスが出てしまう。そんなときは、定着と本番への橋渡しという別の視点が助けになります。
エイムは、たしかに上達の土台の一つです。けれど、そこだけを見つめ続けても超えられない壁があるのだとしたら、少し視線を上げて、撃ち合いが始まる前の時間に目を向けてみる。今日の一試合、まずは「観る対象を一つ」決めるところから、静かに始めてみてはいかがでしょうか。
参考
- 金谷治 訳注『新訂 孫子』岩波文庫(Amazon)
- W. G. チェイス/H. A. サイモン「Perception in chess」Cognitive Psychology 4(1), 55–81(1973)
ここまで読んで、「自分の伸び悩みは、エイムより手前にあったのかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。
「じょうたつの学校」は、フィジカルスポーツからe-sportsまで、競技や年代を問わず、選手とその保護者、指導者の方に向けた個別のスポーツコーチングサービスです。FPSでいえば、エイムだけでなく観察や判断といった見えにくい層まで含めて、あなたが今どこで止まっているのかを一緒に見立て、次の一歩を静かに整理していきます。
