ゲームの立ち回りとは何か──数的・位置的・質的優位を「小さく作り続ける」

「立ち回りを良くしろ」で止まると、何をすればいいか分からない

「立ち回りを良くしろ」「有利を取れ」「引け、いや攻めろ」。たしかにこうした助言は正しいもので、試合を見たときに感じた点を言語化したものです。

しかし、問題はそれをどうやって実現すればよいか、です。「立ち回りが良い」というのは、多くの場合、結果として現れた状態を指しています。有利な盤面、余裕のある位置取り、通ったスキル。けれど結果は、直接つかもうとしても手からすり抜けていきます。有利な状態になろうとして、有利な状態になれるのなら、誰も苦労しません。

つまり、私たちに必要なのは「良い立ち回り」という結果の名前ではなく、その結果を生んでいる手前の中身──何を観て、何を判断し、どう動いているのか──を取り出すことなのではないでしょうか。上達を一枚の地図として眺めると、操作の速さ、盤面の知覚、知識、戦術の判断、心の保ち方といった、いくつもの層が重なっています。「立ち回り」はそのすべてをまたぐ言葉なので、まずはどの層の話なのかを分けてあげる必要があるように思います。

優位を三つに分ける──数的・位置的・質的

では、その中心にある「優位」を、具体的な問いに変えてみましょう。優位とは何かをひとことで言えば、時間と場所を、相手より先に、相手より多く制していることだと考えています。抽象的に聞こえるかもしれませんが、これは三つの種類に分けると、イメージを掴んでいただけると思います。

一つ目は数的優位です。人数やリソースが相手を上回っている状態のこと。弾薬、ゲージ、クールタイムの空いたスキル、残っている回復。「いま、使える手札は自分のほうが多いか」と問える場面です。二つ目は位置的優位です。相手が対応しづらい場所を取れているか。射線が通り、退路があり、相手が振り向くのに一手かかる位置。「相手は、いまの自分にすぐ対応できるか」と問えます。三つ目は質的優位、つまりかみ合わせです。マッチアップとして自分の側が有利か。近距離が強い側が距離を詰められているか、相性で上回れているか。「このぶつかり合いは、そもそも自分に分があるか」と問えます。

「立ち回りが悪い」と感じた場面を、この三つの問いで観返してみると、たいてい、どれかで負けていることが見えてきます。人数は互角なのに、対応しづらい場所を相手に取られていた。位置は良かったのに、リソースを使い切っていた。原因が一つに絞れれば、次に直すところもひとつに決まります。古い兵法に、勝てる形を先に作ってから戦いを求める、という言葉があります。優位とは、戦いの結果ではなく、戦う前に整えておく形なのだと思います。

もう一つ大切なのは、優位を作れなかった場面を、ミスの瞬間から遡って観ることです。やられた瞬間ではなく、その二手、三手前に、どの優位を手放したのか。そこまで戻ると、直すべき一点が見つかることが多いのではないでしょうか。

強みで戦い、弱みは練習で(土俵を広げる)

優位を作る力は、自分の強みと切り離せません。同じ位置を取っても、近距離の撃ち合いが強い人と、待ちの読みが強い人とでは、そこが優位になるかどうかが変わります。だから本番では、自分の強みが優位に直結する土俵へ、意識して持ち込むのが素直な戦い方だと思います。

ただ、強み一本だけで戦い続けると、その形はやがて読まれます。相手はあなたの得意な土俵を避け、苦手な距離、苦手な展開へと誘い込んでくる。一面的な強さは、いずれ潰されるのではないでしょうか。ここで効いてくるのが、弱みの扱いです。本番は強みで戦い、弱みは練習の場で少しずつ訓練して、戦える土俵そのものを広げていく。この役割分担が、長く伸びていく人の取り組み方のように見えます。

『達人のサイエンス』を著したジョージ・レナードは、達人とは結果を焦らず、停滞の時期をも受け入れながら、日々の小さな前進を積み続ける人だと述べています。漫然と試合数を重ねるのではなく、いまの自分に欠けている一点を選び、そこに負荷をかけて地道に直していく。弱みの克服も、この焦らず積み続ける姿勢と相性が良いのだと思います。

一気にでなく、小さく作り続ける

優位は、一度に大きく作ろうとすると、たいてい無理が出ます。強引に前へ出て、数的優位もないのに仕掛け、かえって位置を失う。大きな一発を狙う気持ちが、リスクとリターンの釣り合いを見えなくさせてしまうのかもしれません。

むしろ、小さな優位を、途切れさせずに積んでいくほうが確かです。ひとつ有利な交換をしたら、その分を次の位置取りに変え、また小さく前へ。おもしろいのは、少し優位に立ったときほど、人は油断して雑になり、せっかくの優位を手放しやすいということです。優位なときこそ、それを広げにいく。守りに入るのではなく、いま持っている差を、次の差へと変えていく。この静かな連続が、気づけば大きな差になっているのではないでしょうか。

一つの優位を狙って確かめる

たくさんのことを一度に変えようとすると、また「立ち回り」という曖昧な霧の中に戻ってしまいます。だから次の試合では、三つのうち、ひとつだけを選んでみてください。「今日は位置的優位だけを意識する」でも、「リソースが上か下かだけを、要所で確かめる」でも構いません。

一つに絞ると、うまくいったか、いかなかったかが、はっきり観えます。確かめられれば、次に何を直すかも決まる。立ち回りが上手くなるとは、たぶん、この「狙って、確かめて、直す」を、小さく回し続けられるようになることなのだと思います。有利状況の作り方は、大きな才能の話ではなく、観て確かめられる問いを一つずつ持てるかどうかにかかっているのではないでしょうか。

参考

  • 金谷治 訳注『新訂 孫子』岩波文庫(Amazon
  • ジョージ・レナード『達人のサイエンス―真の自己成長のために』日本教文社(Amazon

ここまで読んで、「自分の“立ち回り”も、分けて観返せば、直せる一点が見つかるかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。

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