スポーツおいて、私たちは日々何かを学び、技術を改善しようと努力しています。しかし、懸命に努力しているのに、打ち方や力の使い方、フォームといった技術面を改善しようとしても変化が生まれなかったり、やるべきことや行うべき動作は分かっているのだけど、なかなか実践ができないことがあります。そこには、これまで学んだ技術や経験が、時には私たちの変化を妨げる壁になってしまっている可能性があります。今日はその理由と対策、そして「アンラーン」についてお話しします。
技術改善の難しさとその壁
技術を改善する際、「どうにかして上手くなりたい」と思うものの、なかなか変化が生まれない瞬間があるのではないでしょうか。打ち方や力の使い方、フォームなど、確実に改善したい技術があるのに、なぜかうまくいかない。その原因は何でしょう?
バリー・オライリーが書いた、『アンラーン戦略』では、私たちが持っている成功体験が、時に新しい方法を身につけることを妨げると指摘しています。
良い結果を出した経験があると、そこから得られた報酬や称賛につながると思われる行動に執着するようになる。
良い結果のせいで、それとは違ったやり方にトライしたがらなくなってしまう。失敗するのが怖いから。
何であれ、悪い結果が出るのは嫌なのだ。人は成功すればするほど、これまで実行していない方法や代替手段を試すのを怖がる。自分の輝かしい記録や名声、あるいは個人のブランドが壊れるのが怖いからだ。
成功体験があるからこそ、「失敗するのが怖い」と感じるのです。
些細なことでも、できるようになったことは成功体験
成功体験と言っても、大会で勝ち抜いた、であるとか、ランキング上位に入った、という決してだいそれたものではありません。
例えば、あなたにも最初は初心者だった時があり、そのときは、ボールが色々な方向に飛んでいったり、バットにボールが当たらなかった時があるでしょう。
しかし、工夫を重ねて少しずつできるようになり、そして「ボールがコートに入る」ようになったり、「バットにボールが当たる」ようになったと思います。
これらも十分に『成功体験』です。
成功体験が改善の邪魔をする ー損失回避バイアスー
一度『成功体験』を手にすると、今度はそれを失うことに恐れや不安が生じてきます。
ボールはコートに入れたくなりますし、バットにボールは当てたくなるでしょう。しかし、新しい振り方や力の使い方、フォームにトライしようとすると、『ボールをコートに入れる』ことや『バットにボールを当てる』ことと、新しいやり方を一度に両立させることは難しいのが現実です。
そして、頭では新しいやり方に集中して取り組もうと思っても、無意識のうちにこれまでの成功体験を手放すことが怖くなっているため、これまでのやり方で練習を繰り返してしまうのです。
これは、専門用語では「損失回避バイアス」と言い、誰もが直面するものです。これは、損失を避けるために行動を躊躇してしまう心理的な傾向です。成功が続くと、その結果を維持しようとするあまり、新しい挑戦に対して消極的になってしまうのです。
この状況を打破するためには、「失敗しても大丈夫」という心持ちを持てるかどうかがカギとなります。失敗を恐れずに、自分の限界を探り、新しい挑戦を楽しむことが成長の一歩となるからです。
安心して失敗できる場所で練習する
ここで重要になるのが『安心して失敗できる場』であり、『失敗しても良い環境』で練習をすることです。
例えば、新しいやり方を試しているときに、とても大切な試合が来たとしたら、そこではどうしてもボールをコートに入れたくなりますし、バットにボールを当てたくなり、とてもではありませんが、新しいやり方を試すことはできません。
練習においても、自分が少しでも失敗を恐れないで、思い切って挑戦できる場を工夫してみましょう。
たとえば、相手がいたら相手に気兼ねをしてしまうのであれば、まずは素振りや壁を相手にして取り組む、といったように工夫し、できてきたら少しずつ条件をあげていくようにしてみましょう。
まとめ
先に紹介した書籍には、このようにも書いてあります。
勇敢であればあるほど、つまずき転ぶものだ。危機にさらされるリスクをおかす人にとって、これは免れ得ない鉄則だ。
戦いのリングに上り、打ちのめされるリスクをおかすということは、実は倒れても構わないという心算があるということだ。
勇敢であるとは『失敗のリスクを負うことを厭わない』ということではなく、『倒れるに決まっている、それでも全力で行く』ということだ。勇敢であるからこそ幸運が訪れるが、失敗も必ず経ることになるのだ
私たちが日々の練習において、自分の限界を押し広げるためには、勇気を持って挑戦し続けることが不可欠です。その一歩が、新たな可能性を切り拓いてくれるのです。
参考文献
アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す バリー・オライリー (著), 中竹竜二 (監修), 山内あゆ子 (翻訳)