サッカーの状況判断はどう鍛える?──「センス」で終わらせない3層分解

「状況判断はセンス」で止まると、練習に落とせない

サッカーで「状況判断」という言葉が出てくるとき、その後ろに「センス」「天性」「サッカー脳」といった言葉が続くことが、よくあります。良い判断ができる選手は最初から持っていて仕方がないもの、という印象を受けます。

たしかにプレーの選び方には、それぞれの個性が出ます。同じ場面でも、選手ごとに選択が少しずつ違ってきます。けれど、ここで「センスだ」で止まってしまうと、二つのことが起きます。

一つは、選手自身が、自分を「センスがない側の人間」だと決めてしまうこと。もう一つは、判断を鍛えるための具体的な行動に結びつかないことで変化が生み出せないこと。どちらも、上達の道を細くしてしまいます。

意思決定を研究してきた認知心理学者ゲーリー・クラインは、消防士や看護師といった専門家が、緊迫した場面での判断を「複数の選択肢を比べて決めている」のではなく、過去に積み上げた経験から目の前の状況のパターンを認識し、最初に浮かんだ妥当な一手を選んでいることを明らかにしました(自然主義的意思決定)。一見「ぱっと見て決めている」ように見えるプロセスは、生まれつきの勘ではなく、積み重ねられた観察のパターン認識に支えられている、ということです。

サッカーの状況判断も、同じではないでしょうか。トップ選手が自然に行っているように見える場面も、その判断がどのように行われているかを分解してみることで、状況判断をセンスではなく「鍛えられる対象」に変わります。

状況判断を3層に分ける──観る、読む、選択する

状況判断という一語をひもとくと、観る・読む・選ぶという三つの要素で行っていると言えます。逆に言えば、この三つを別々の対象として鍛えていくことで判断が洗練されていくのです。

まず1つ目は「観る」。いまピッチで起きていること、これから起きることの予兆をとらえる作業です。スペースの位置、味方と相手の立ち位置、相手の体の向き、ボールの方向、ゴールまでの距離――こうした材料を、できるだけ正確にとらえます。「自分は見えている」と思っていても、判断ミスをした場面を振り返ると、観られていなかったものが見つかることは少なくありません。何を観るかは局面ごとにさらに具体化できますが、ここで押さえておきたいのは、この「観る」が、あとの「読む」「選択する」の材料になるという一点です。

二つ目は「読む」。ここが、状況判断の心臓部です。 読むとは、これから起きることを想定し、自分の選択肢ごとに「うまくいけば何を得られるか(リターン)」と「外せば何を失うか(リスク)」を、対にして見積もる作業です。

たとえば、前の味方が裏に抜けたがっていると読んだとき。そのパスが通れば一気に前進できます(大きなリターン)。けれど引っかかることになれば、自陣を広く空けて危険を背負う(大きなリスク)ことになります。また、寄せてくる相手が来る時、かわせば前を向ける(リターン)反面、奪われればそのまま危ない位置を取られます(リスク)。選択肢には、それがうまくいったときに得られるものと、うまくいかなかったときに失うものがあり、大切なことはその両方をきちんと理解したうえで選択していくことです。うまくいく場合だけを想像して決めてしまうと、それがうまくいかなかった時に大きく崩れてしまいます。成功する可能性を冷静に判断することで、期待だけに賭けて決めるのではなく、うまくいかなかったときにどれだけ失うか、そしてその失敗がどれくらいの確からしさで起こりそうかを見積もって、はじめて現実的な一手が見えてきます。そして、こうした読みは前の「観る」が正確であるほど精度が上がります。観られていないものは、読みようがないからです。

三つ目が「選択する」。読みで並べた天秤を見て、いま自分に取れる手の中から一つを選ぶ作業です。ここでのコツは、ただ良い手を選ぶだけでなく、選んだ手のリスクを下げる方法を工夫するようにしましょう。読みの段階で見積もったリスクを小さくすることで、成功する可能性をあげて失敗する可能性を低くしていくのです。たとえば自分が前進というリスクを取りに行くなら、その背後を味方にカバーしてもらえる状況であるかどうかを確認したうえで前進する。もし奪われても、致命的な状態にならないことを確認する。あるいは、仕掛ける前に体の向きや立ち位置を整えておき、リスクが現実になった瞬間に、すぐ最小限で対応できる準備をしておく。同じ「前に出る」でも、丸腰で出るのと、カバーと備えをそろえてから出るのとでは、外したときの危うさがまったく変わってきます。良い選択とは、いちばん効果的な手を選ぶことであると同時に、その選択の危うさをあらかじめ抑えておくことでもあるのです。

ここで選び取ろうとしている「効果的な手」についてもよく考える必要があります。派手な一点突破や、一発で局面をひっくり返すプレーは、決まれば大きいぶん、外せば失うものも大きい――リターンもリスクも大きい手です。それを毎回狙うより、いま握っている優位を手放さずに保ち続けることを、まず土台に置きます。優位を保てていれば、相手は守りに追われ、こちらには次の選択肢が生まれ続けます。チャンスは、一度の勝負で無理に作らなくても、優位を保つほど自然と巡ってきて、その数も増えていきます。だから選択とは、低いリスクで小さな優位を一つずつ積み増し、少しずつ広げていく一手を、リスクとリターンを見比べながら選ぶことでもあるのです。

選択は、「観る」と「読む」が整理されてくることで自然に取れる選択肢が明らかになってくるものです。観ることと読むことが弱いままだと、ピッチには無限の選択肢があるように見えてしまい、選択は「センスで決めるしかない」ということになってしまいます。

この3点をそれぞれ鍛えていくことで状況判断の質が高まっていきます。試合を振り返るとき、「プレーが良かった、悪かった」という評価ではなく、「あの場面、何を観ていた?」という問いから、「寄せてきた相手の体は、どっちを向いていた?」「味方は、どこを欲しがっていたと思う?」と、それぞれの解像度をあげながら振り返りをしてみましょう。

一つずつ、焦点を絞って改善する

「判断」をこのように分けてみると、センスではなく具体的に改善すべきポイントが見えてきます。そして、練習で大事なのは、これらを全て一気に鍛えようとせず、一つずつフォーカスを絞って取り組んでみましょう。あれもこれもと一度に良くしようとすると、焦点がぶれて、どれも中途半端なまま変わりません。逆に、一つにフォーカスするからこそ、そこは確かに変化を生み出していくことができます。まずは、いまの自分にいちばん足りていないと感じるのはどこか――観るなのか、読むなのか、選択なのか――を、自分なりに整理してみることから始めましょう

たとえば「観る」が薄い選手であれば、しばらくは「受ける前にマーカーの位置を一度観る」だけを徹底する、「読む」に課題を感じている選手であれば、「あの場面、ほかにはどんな読みがあった?」と問い直す、「選択する」が固定化している選手であれば、選んだ理由を毎回言葉にしてみる、といったかたちで実践してみましょう。

そして、それらの改善点は、頭でわかっただけでは変わりません。自分の身体に定着するまで、繰り返し取り組んでいきます。やり方はシンプルです。実践して、振り返り、その振り返りを踏まえて取り組む中身を少し調整して、また実践する。この往復を続けるうちに、意識しないとできなかったことが、少しずつ身体に染み込んでいきます。

たとえば「受ける前にマーカーの位置を一度観る」と決めて練習に臨んだとします。あとで振り返ると、「止まっているときは観られたが、動きながらだと観られていなかった」と振り返りができたときは、動きながらどこに注意が向いていたか、を振り返ると同時になぜそこに注意が向いたのかを問い直してみましょう。それを踏まえたうえで「動き出す直前に、もう一度観る」という意識の中身をさらに一段具体的にして、また取り組んでみます。こうして振り返りで見つかったズレを次の取り組みに反映させていきながら、改善させていきましょう。

経験学習を研究してきた中原淳氏も、経験から学ぶには、それを振り返り言葉にし直す習慣が欠かせないと指摘しています。状況判断の3層も、試合のあとに「観る・読む・選択する」の順で振り返ることで、頭のなかに少しずつ住みついていきます。振り返りそのものをどう設計するかについては、結果を変える振り返りの技術もあわせて読んでみてください。

選手を周囲でサポートしている方でしたら、こうした少し具体的な声かけを考えてみましょう。「もっと考えて」「センスを磨いて」というかたちではなく、「どう観えていた?」「どう読んでいたの?」「他にどうしたらよかったかな?」といったかたちで、問いを具体的に、そして絞り込むと、事実を二人で探求するような姿勢に変わり、声かけそのものが、観察という取り組みを頭のなかに住まわせるための、小さな道具になっていきます。

参考

  • ゲーリー・クライン『決断の法則――人はどのようにして意思決定するのか?』ちくま学芸文庫(Amazon
  • 中原淳『経験学習入門』ダイヤモンド社 ※ASIN要確認

ここまで読んで、「状況判断を3層に分けるのはわかったけれど、うちの子(あるいは自分自身)が3層のうちどこに薄さがあるかは、自分ではなかなか見えにくい」と感じた方もいるかもしれません。

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